日経ビジネスの4月22日号特集「強くなれる給料」では伝統的な年功型賃金や職能給に加え、迷走する成果給、欧米型の職務給などの制度を紹介した。有識者への取材では年功型賃金への評価が分かれている。タワーズワトソンの森田純夫ディレクター、パソナHRコンサルティングの金子良和常務執行役員、清家篤前慶応義塾長の3氏のインタビューを掲載する。
「職務給」入れねば国際競争に負ける タワーズワトソンの森田純夫ディレクター

大手損害保険会社勤務を経てタワーズワトソン入社。報酬関連のコンサルティングを手掛ける部門のディレクターを務める。
企業に求められる人材が変わってきている。会社の事業の専門家を社内で育てていればよい時代ではなくなった。「AI(人工知能)」や「デジタル」「IoT」に精通した、新たなタイプの人材が必要になっている。新領域であるだけに、ほとんどの企業でそのような人材は育っておらず、社外から引っ張ってくる必要に迫られている。
ただAIやデジタルなどの分野で有能な人材は転職市場では引く手あまたで、給与の相場は高い。多くの日本企業が採用する年功ベースの賃金テーブルに当てはめると、提示できる報酬が少なすぎて雇えない。
解決策の1つは、ポストの役割の大きさに基づいて給与を決める「職務給」の採用だ。AIなど重要な役割を担うポストには、それに見合った高給を支払えるようになる。社員は自分の給与を高めるためにも、転職市場で通用する専門性の高いスキルを社内で磨くことが必要になる。
これまでの日本企業は一般的に社員の専門性を追求するようなジョブローテーションを実施してこなかった。様々な部署を経験させ、ジェネラリストを育てることに力を入れてきた。この結果、専門性を持たない社員が多く生まれてしまっている。
肩書はそれなりに立派だが、役割が小さい社員もいる。こうした社員は職務給の導入で給与が下がる。そのため労働組合の多くは職務給の導入に抵抗する。結果的に、日本企業の大半は導入できていない。
苦肉の策として、AIなどの人材には既存の給与制度を適用せず、特別に高給を支払うこともある。この場合、既存の給与制度の下で働いている社員との間で不公平感が生じることになる。
会社としてどのような人材を必要としていて、既存の社員をどのように処遇していくのかを考えなければならない時期に差し掛かっている。真剣に取り組まなければ、日本企業は必要とする人材を確保できず、国際競争力が低下する懸念がある。
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