中西宏明会長が社長だった11年に「グローバル共通の人事制度が必要」と号令をかけた。これを受け13年から14年にかけて導入したのが管理職に限ってポストの重要性を格付けするグローバル・グレード制度と、それに基づく処遇だ。組織の大きさや影響力、仕事の複雑さといった尺度で「部長」「現地法人副社長」といったポストに点数を付ける。ポストで決まった金額に、経営計画にどの程度貢献したかの評価を組み合わせて個人の報酬額が決まる。「総合職3級」「参事補」といった資格に基づき経験に応じて昇給する職能給は管理職で廃止した。

上から川村隆氏、中西宏明氏、東原敏昭氏の歴代社長(写真=中西氏:稲垣 純也、川村氏  ・東原氏:北山 宏一)
上から川村隆氏、中西宏明氏、東原敏昭氏の歴代社長(写真=中西氏:稲垣 純也、川村氏 ・東原氏:北山 宏一)

 ポストによって金額が決まる給与制度は一般的に「ジョブ型」「職務給」と呼ばれる。欧米では広く浸透しているが、日本企業では多くない。外部コンサルタントを使えば、そのポストの評価を他社の同じ仕事内容のポストと比較することができる。適正な給与水準で、優秀な人材を外部から確保しやすくなった。

 世界に打って出るための制度だが、社風の転換につなげたい願いも込められている。かつての日立は製品に強みを持つプロダクトアウト型のビジネスモデル。技術を磨くことに専念する職場は年功要素が強く、社員は安心しきっていた。当時会長だった川村隆氏は「社内に失業者がいる」「職場に猛烈に巣くうものがある」と嘆いていた。

 その社風を払拭したとは今も言い切れない。もともとの職能給は団塊世代が中堅になった1980年代、ポスト不足を補うために定着した制度でもある。部長や事業部長になれなくても同期と給与が大きく変わらない。その仕組みが覆れば昇進できない人がやる気を失う結果になりかねない。

 中畑執行役専務は「自らポジションを取りに行ってほしい」と管理職に求める。就きたい地位に必要なスキルを学び、経験を積む。リカレント教育(学び直し)の場として4月1日、グループの研修機関を再編成した。平等にチャンスを与えることにこだわり、ついて来ない社員は相応の処遇になる。

 経営の目安とする営業利益率は2019年3月期までの中期計画で掲げる8%超の達成が目前に迫っている。中畑氏は「管理職のモチベーション、気持ちは変わってきた」という。将来はポストにひもづく給与を係長クラスから取り入れることも考えている。 

 家電子会社で46歳の社長が誕生した4月1日、東原敏昭社長は新入社員の前で「3年後、5年後の自分の姿をクリアに描いてほしい」と訴えた。変わる会社にシニアから若手まで社員が付いていけるか。日立の取り組みは日本企業の給与がどうなっていくかの試金石ともいえる。

INTERVIEW 中畑英信執行役専務に聞く

「管理職の意識は変わった」

(なかはた・ひでのぶ)代表執行役・執行役専務。1983年日立製作所入社、2014年執行役常務CHRO(最高人事責任者)兼人財統括本部長、18年から現職。
(なかはた・ひでのぶ)代表執行役・執行役専務。1983年日立製作所入社、2014年執行役常務CHRO(最高人事責任者)兼人財統括本部長、18年から現職。

 段階を追って人事や給与の制度を改めています。2012年にグループ従業員をデータベースで把握できるようにし、13年には管理職を対象に仕事の中身によってポストのグレード、格付けを決めました。全世界にあるマネージャー以上の5万のポストが対象です。これにより、外部のコンサルタントを使うことで、海外の他社で同じ格付けになるのはどういうポジションなのかが比較できるようになりました。

 そして14年に管理職について経営計画への貢献度に沿って評価する制度を採り入れ、グレードと合わせて処遇を決める方式に切り替えました。管理職では職能給という考え方を捨て、給与はすべて仕事、ポストとひもづけています。いわゆる職務給という制度で、ジョブ型、役割給などとも呼ばれるものです。

 かつては「総合職3級」「4級」というような資格がありました。ビジネスとしても製品やシステムが重要で、技術と生産の力を磨いていくため、社員は経験しながらだんだんと能力が上がり、給与も上がるという仕組みが良かった。しかし、ビジネスがソリューション中心に変わり、製品ではなく、人によって差別化するしかなくなっています。

 一方で、1980年代には団塊の世代のポストが足りなくなりました。同じ資格でもポジションは部長だったり、本部長だったり、時には課長までいる。ポジションの重さが違うのに資格が同じだから、給与のレベルも変わらない状態が続いていました。今は重いポジションの人がリードしていくビジネスになったのに、ポストと処遇がイコールになっていなかった。だから給与をポストにひもづける考え方にしています。

 もちろん世界で事業を伸ばすのが前提ですから、人事制度もグローバル共通である必要性が高まりました。外国人と日本人が同じ部門にいて、オフィスはバラバラでも、テレビ会議を頻繁に開きながら同じ目標に向かって仕事をするようになった。それなのに評価の制度が違うというわけにはいかなくなりました。

 米国人と英国人と日本人が一緒に仕事をして、こういうアウトプットが出たというのが明確になってくるのが、人事部門の目標です。すでに管理職のモチベーション、気持ちは変わってきていると思います。

 ただ、日本人はまだ受け身のところがあります。ジョブ型は報酬がポジションに付いてくるので、自分からそのポジションを取りにいかないといけない。自分でキャリアをこうしたいと決めて必要なスキルを磨いて経験を積む必要があります。管理職には会社が手を挙げるチャンスを設け、リカレント教育(学び直し)も実施します。50代以上でも手を挙げていい。手を挙げない人は、望むようなポジションには就けないということになりますが、やむを得ないことだと思います。(談)

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