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インターネット通販大手の楽天が2019年10月、国内携帯電話市場に新規参入する。NTTドコモやKDDI(au)、ソフトバンクに続く「第4軸」が誕生するのは約13年ぶりになる。14年から格安スマートフォン(スマホ)事業を手掛けてはいるが、自前で最大6000億円規模の資金を投じる展開は大きな賭けだ。長らく続く大手3社の寡占市場に割って入り、5G時代に躍進できるのか。楽天傘下で携帯通信事業を担う楽天モバイルのタレック・アミンCTO(最高技術責任者)にゲームチェンジの“秘策”を聞いた。
楽天モバイルのタレック・アミンCTO(最高技術責任者)

楽天の三木谷浩史会長兼社長は10月に始める携帯事業について「今までにないネットワーク構造の携帯事業が世界で初めて誕生することになる」と説明しています。どのような点が「今までにない」のでしょうか。

タレック・アミン楽天モバイルCTO(最高技術責任者、以下アミン氏):そのことを説明する前にまず、電気通信分野で起きた進化を振り返ってみましょう。無線通信の新たな技術が次々に登場し、1G(第1世代)から2G、3G、4Gへと世代交代してきたのは確かです。でも、実際のところはさして変化がなかった、というのが私の見立て。せっかく新しい優れた技術が出てきても、その恩恵を消費者が受けるようになるまでにコストも時間も掛かりすぎるからです。その点はここ10年でみても何ら変わっていません。

 この問題は、通信インフラを構成する基地局など通信機器に起因しています。どの機器もハードウエアとソフトウエアが緊密に結び付いた構造で柔軟性に欠け、そのことでネットワークの構築や保守運用に際し、多くの人手を必要とする仕組みになっています。当社では、こうした従来型のネットワークの構造を「レガシー・ネットワーク・テクノロジー・アーキテクチャー」と称しています。

では、楽天が作る通信インフラは従来と何が違うのですか。

アミン氏:楽天はそもそもIT(情報技術)をなりわいとしてきた企業です。つまり米国のグーグルやフェイスブック、アマゾン・ドット・コムのようにITに関しての幅広いスキルや経営資源を、そしてまた、クラウドコンピューティングに関するノウハウを持っているわけです。

 そうした企業が作る通信インフラとはどういうものか。特徴の1つは(通信機器の持つ機能をソフトウエアによって一般的なサーバー上で実現する)「仮想化」と呼ばれる技術をネットワークの隅々にまで取り入れることです。各種の通信機器をハードウエアとソフトウエアに分離させ、楽天のクラウドコンピューティング基盤の上で運営することになります。この戦略で重要なのは、その仮想化技術を基地局にまで適用する点。こうした取り組みを商用の通信インフラにおいて実施する通信会社は、世界広しと言えど楽天しかありません。

他の携帯電話会社は、専用ソフトをあらかじめ組み込んだ基地局を個別に管理する方式を採用しています。こうした従来方式に比べてどのようなメリットがあるのですか。

アミン氏:まずTCO(総所有コスト)については、非常に保守的に見積もっても35%程度は削減できるでしょう。ただ、私がより注目しているのはOPEX(運用コスト)の削減効果です。例えば高品質で信頼性の高い通信サービスの提供に必要となる人員の規模でいうと、従来方式を採用した場合に比べて70%減らせるとみています。

通信インフラの展開に当たっては、基地局設置に掛かる工事費用の負担が大きいといわれています。

アミン氏:従来の基地局は構造が複雑で、様々な装置の集合体なので設置作業に時間や人手が掛かり、コストもかさみがちです。一方、仮想化技術を採用した当社の基地局はシンプルな構成なので、15分といった非常に短い作業時間で済み、それだけコストも抑えられます。このように効率性を追求した通信インフラの仕組みそのものがイノベーションである、と私は自負しています。

それほど優れた技術であれば、他の通信会社が先に取り入れていても良さそうです。なぜ導入が広がっていないのでしょうか。

アミン氏:これは私見ですが、これまでの通信会社がもともと持っている通信インフラや既存の組織構造が、挑戦を妨げている障壁になっているのではないでしょうか。当社が通信インフラの基本構成を固めたのは2018年8月ごろのことでしたが、当時は何の設備も持たず「次世代のネットワーク・アーキテクチャはこうあるべきだ」との信念だけがありました。だからこそ他の通信会社のような障壁に悩まされることなく、インフラ構築作業に取り掛かれたのです。