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 3月27日、日産自動車の企業統治改革を議論する「ガバナンス改善特別委員会」が取りまとめた報告書は、元会長のカルロス・ゴーン被告が起こした不正の性質について、こう分析している。「本件不正行為等は、一言で言うならば、『典型的な経営者不正』である。しかも、経営者が私的利益を追求している点で、いわゆる『会社のため』を不正の正当化根拠としていた過去の上場会社での経営者不正(粉飾決算・不正会計)と根本的に異なる」

 確かに東芝やオリンパスなど、近年の大企業の不祥事は「会社を守る」ため、あるいは「自身の立場を守る」ために経営者が主導したとされる例が多い。ゴーン氏のように、自身の懐を温めるようなケースは珍しい。そもそも、なぜ、こうした違いがあるのか。コーポレートガバナンス(企業統治)に詳しい早稲田大学商学学術院の宮島英昭教授に聞いた。

宮島英昭(みやじま・ひであき)氏
1978年立教大学経済学部卒、85年東京大学大学院博士課程単位取得修了、95年早稲田大学商学部教授。ハーバード大学エドウィン・O・ライシャワー日本研究所客員研究員などを歴任。

役員報酬の虚偽記載などの罪が問われるカルロス・ゴーン氏の事件について、どう位置付けますか。

宮島英昭・早稲田大学商学学術院教授(以下、宮島):日本では役員報酬の水準を上げ、業績連動の要素を大きくしようという動きが出始めているところだ。今の報酬制度では、失敗したときのリスクが大きい割に、成功したときのベネフィットが少なく、経営者はどうしても保守的な姿勢になってしまう。経営者の意識を変える意味では、業績連動度を高めようというのは基本的には正しい方向だ。

 そういう制度を作ろうとしている中で、ゴーン事件は起きた。将来、日本人経営者でも起こり得るという意味では、一周先の話と言える。

海外での経営者不正に特徴はありますか。

宮島:各国・地域ごとに不正のタイプは違う。株価連動の報酬体系の米国では、経営者は自分の報酬額を高くするために、株価を操作したくなる。それが巨額粉飾で破綻に追い込まれたエンロン事件だった。

 ファミリー企業が多い欧州では、傘下の企業を通じて、自身の利益に結び付くような取引をしたりする。ロシアや韓国、タイなどでもそうしたパターンが多い。

 一方、日本では会社のため、自身の立場を守るため、という例が多い。オリンパスの粉飾決算が明らかになった際、海外メディアの取材を受けたことがあるが、彼らは、大きな私的利益が得られないのになぜ、経営者が不正を犯したのか理解できないようだった。最後は「裏にマフィアがいるのか」と思ったようだ。命が狙われない限り、そんなことはできないと(笑)。それくらい、日本の経営者不正は特異といえる。

そもそも、なぜ海外の経営トップの報酬額は高いのでしょう。

宮島:相場観でいえば、米国のトップ企業の経営者報酬は年収13億~14億円、欧州で同7億~8億円、日本は同1億円を超えるか超えないか、というところ。米国でなぜ、ここまで上がったかといえば、いろいろな解釈があるが、敵対的買収を利用したガバナンスのメカニズムの有効性が疑問視され、株主と経営者の利害を結びつける報酬体系のメリットが重視されたことが大きい。米国では株価連動型の報酬が1990年代半ばから取り入れられるようになった。世界経済の拡大などを受け、株価も上がった。それに伴い、報酬額も増えていく。経営者にとっては魅力的なスキームになった。一方で報酬を的確に評価する仕組み作りも進んだ。

 米国や英国では経営者の流動性が高いことも、経営者の報酬水準を押し上げる要因だ。ファミリー企業が多いとはいえ、欧州でも後を追う形で報酬額が上がっていった。

 ところが、日本は別の原理で報酬額が決まる。経営トップは内部昇格を基本としているからだ。会社の中で最も有能で、会社に対する忠誠心が高い人がトップになる。外部の経営者市場の相場はあまり意味を成さなかった。