AIの可能性と限界。人だからできること。
人とAIが創造する未来図

枝松:ただ、難しいのはご入居者のQOLは一人ひとり違うということ。

宮下:QOLの定量化に取り組んでいますが、当然ながら、AIだけでは太刀打ちできないんですよね。でも逆に、AIの限界を知れば、自ずと介護スタッフがやるべきことが見えてくる。今は、それが重要だと思っています。

枝松:そう、まさにそこがテクノロジーと人が創造する介護の未来図だと思うんです。今、「マジ神AI」の開発のために、モデルホームでご入居者の協力を得て、さまざまなデータを取らせていただいています。これは、実証に協力してくださったご入居者の話です。パーキンソン病のご入居者で、ほとんど言葉を発することができませんでした。寝ているときも苦しそうだったため、私たちは寝姿勢に着目。その方の寝姿勢を整え始めるとすやすやと眠られ、以降、睡眠センサーのデータも好転しました。もちろん、私たちは喜びました。でも、私はフッと「眠れるようになったけれど、この方のありたい姿や状態に本当に近づけたのかな?」と疑問に思ったのです。私はその方がお書きになった自叙伝を読ませていただき、人とコミュニケーションをとることがすごくお好きな方だったということを知りました。思えば、私たちが最初に寝姿勢を整えたときには、3人でその方に話しかけながらやっていました。それがよかったのではないかと考え、一度は1人での介助にしたのですが、次からあえてスタッフ2人で介助に入り、自叙伝に出てきたご両親のお話などをしながら寝姿勢を整えていくようにしたんです。そんなある日、私たちが「おはようございます」と声をかけたら、それまでは言葉を発することのなかったその方が「おはよう」と返してくださったのです。

宮下:奇跡のような話ですね。

枝松:そうなんです。ほかにも、睡眠センサーのデータは好転したけれど、ぼんやりすることが多くなったご入居者がいらっしゃいました。医師と連携して投薬を調整するなどしたところ、その方は本来のお世話好きな人柄を取り戻し、今は快活に暮らしていらっしゃいます。私たちは、「データが好転してもその方のQOLが上がるとは限らない」という体験を山ほどしています。でも、データが気づきのヒントになる。だから今も、その「気づき」とその方の「ありたい姿」とを行きつ戻りつしながら、ご入居者に寄りそっています。

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