データの裏に隠れた真実を見抜く、生きた「人」の目が大切

 滝山氏が、データを正しく読み解くことができる匠の存在を重視するのには、理由がある。モデルホームでセンサー活用の実証を進めていたときのことだ。BPSD(認知症の行動・心理症状)の要因分析に協力したある入居者の初期段階の記録には「帰宅願望、泣き出す、多動、多弁、口調が荒いときがある、食事・入浴・服薬などで拒否もある」とあった。しかし、2カ月経過した時点の記録では「やや傾眠気味だが、穏やかにリビングで過ごされていることが多い」。睡眠センサーのデータでは、この2カ月間で睡眠時間がかなり延びていた。

 「ここでマジ神とモデルホームのスタッフが振り返ったのは、今の状態が本当にそのご入居者の『その方らしさ』なのか、ということでした」と滝山氏は言う。

 実は、この2カ月の間にある向精神薬が新たに医師から処方されていたのだ。以前は他の人の食事の後片付けを手伝おうとするなどの様子も見られていたが、今は穏やかというより、どろんとした表情でうつらうつらすることが多くなっていた。マジ神とモデルホームのスタッフは、その入居者のさまざまな情報をすり合わせ、「今は『その方らしさ』に反した状態では」との仮説を持った。医師と連携し、投薬を調整するなどしたところ、その入居者は、本来のお世話好きな人柄を取り戻した。薬を減らしながらBPSDも落ち着きつつあり、今は快活に暮らしているそうだ。

 「センサーデータが増えることで新たに見えてくることはありますが、一方で見誤ることもあります。睡眠時間が長くなったというデータは、A様にとってはよいことでも、B様にとってはよくない場合もある。その方らしさと照らし合わせて、どう読み解くかが重要です。私はみんなに『センサーは体温計くらいに思っておこう』とあえて言っています」

専門性の高いスキルを持った介護スタッフである「マジ神」のノウハウを教師データとした「マジ神AI」。一般介護スタッフのスキルを向上させるとともに、介護される方へ質の高いサービスを提供する
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