提供:大塚製薬

2021年12月15日に 「免疫スペシャル! ウイルス・菌の侵入を食い止める話題の“粘膜免疫”とは?~防御力のカギを握る食品関連成分を探る~」と題したセミナーが開催された。そこでは、この時期気になる感染症と私たちに備わっている粘膜免疫のメカニズム、また、食品と免疫の関係性についての最新知見が示された。登壇したのは、この領域で先駆的な研究を進める国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所ワクチン・アジュバント研究センターセンター長の國澤純さん、京都府立医科大学大学院医学研究科生体免疫栄養学講座教授の内藤裕二さんのお二人。その内容から、私たちが感染症への備えとして今日から役立てたいポイントをお伝えする。

病原体の侵入口である鼻や喉、腸粘膜で守りを固める「粘膜免疫」

第一部 生体防御システムとしての粘膜免疫と食品
~免疫調整に欠かせない食品成分とその働き~

<span class="fontBold">國澤純</span><br>国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 ワクチン・アジュバント研究センターセンター長<br>ワクチンマテリアルプロジェクト&腸内環境システムプロジェクトプロジェクトリーダー併任。大阪大学薬学部薬学科卒業、同大学院薬学研究科博士課程修了。東京大学医科学研究所客員教授、大阪大学招聘教授、神戸大学客員教授、広島大学客員教授、早稲田大学客員教授などを兼任。感染症やアレルギー炎症性疾患に対する粘膜ワクチンの創出に取り組む。
國澤純
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 ワクチン・アジュバント研究センターセンター長
ワクチンマテリアルプロジェクト&腸内環境システムプロジェクトプロジェクトリーダー併任。大阪大学薬学部薬学科卒業、同大学院薬学研究科博士課程修了。東京大学医科学研究所客員教授、大阪大学招聘教授、神戸大学客員教授、広島大学客員教授、早稲田大学客員教授などを兼任。感染症やアレルギー炎症性疾患に対する粘膜ワクチンの創出に取り組む。

 空気が乾燥し、感染症の流行が気になる季節。日々、疲労をためがちなビジネスパーソンは、思いがけない感染によって体調を崩さないためにも、免疫を維持する知恵を身につけておきたいもの。そこで重要なキーワードになるのが「粘膜免疫」だ。

 セミナーの第一部では、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所ワクチン・アジュバント研究センター長の國澤純さんが、粘膜免疫の仕組みについてわかりやすく解説してくれた。

 「感染対策として、マスク、うがい・手洗いや、鼻・口を触らない、といったことがなぜ重要なのでしょうか。それは、鼻や口がウイルスや細菌といった病原体の侵入口だからです」(國澤さん)

 皮膚の表面は多層構造になっていて病原体は容易に侵入できないが、鼻や喉、さらに奥にある腸の表面を覆う粘膜はいずれもたった1層の細胞によって覆われている構造だ。「薄くて物理的に脆弱な状態だからこそ、粘膜免疫という独自のバリア機能が発達してきたとも考えられます」(國澤さん)。

 粘膜免疫は、図のようにさまざまな免疫物質が助け合って働いている。

1.まず、病原体の侵入口となる「粘膜」表面で、ネバネバした粘液や「IgA(免疫グロブリンA)」という抗体、抗菌ペプチドなどが待機し、病原体が粘膜に入り込む前に排除する

2.それでも粘膜をかいくぐって病原体が侵入すると、“免疫の司令塔”と呼ばれる「樹状細胞」がその病原体固有の情報を収集し、まわりにいる免疫細胞に伝える。免疫細胞は病原体を攻撃し排除したり、その情報を覚えて次なる侵入に備えたりする

 「このとき、病原体の顔を覚えて粘膜内で作られるのがIgAという抗体で、次に同じ顔の病原体がやってきたときにすぐに反応し排除します。さらにIgAは粘膜の壁を越えて外界である腸管内や唾液中にも分泌され、粘膜への侵入を強力に阻止します」(國澤さん)

 IgAを産生する抗体産生細胞のユニークな点は、小腸にある「パイエル板」という免疫細胞が集まる場所で最初の活動を始めても、ここを起点に全身を巡り、再び小腸に戻る「ホーミング」という作用を発揮することだという。「全身を巡りながら鼻や口、喉など離れた場所でもIgAの産生を促し、全身の粘膜免疫を補強することがわかっています」(國澤さん)。

 体に侵入しようとする病原体は、細菌とウイルスに大別される。細菌は自分で増えることができる一方、ウイルスはそれができない。「このため、ウイルスは細胞に感染すると自分の遺伝子情報をもとに、私たちの細胞が持っている機能を使って次の世代のウイルスを作ります。すると細胞があたかもウイルスを生産する工場のようになってしまう――。そこを阻止するのがT細胞です。感染した細胞が『ウイルスに感染した!』という情報を発信すると、T細胞は感染細胞をまるごと排除します」(國澤さん)。

 現在、ワクチン接種によって高まる「抗体価」が取り沙汰されているが、「免疫を維持するためには、抗体が高まること、そして、感染したとしてもその感染細胞をやっつけるT細胞が適切に働くことも大切です」(國澤さん)。

粘膜の表面はネバネバの粘液層が覆う。病原菌がこの層に近づくと、粘液中に待機するIgA(免疫グロブリン)や抗菌物質が病原体を攻撃し、粘膜内への侵入を阻む。粘膜まで病原体が侵入すると、腸管では、小腸粘膜にある「M細胞」が病原体を呼び込み、その下にある「パイエル板」という免疫細胞が集まった組織に送り込む。すると、司令塔である「樹状細胞」が病原体を待ち受け、その情報を収集。情報を受け取ったB細胞は抗体産生細胞となり、IgAを作る。産生されたIgAは粘膜をくぐり抜けて腸管内で病原体をつかまえ、無力化するよう働く。さらに、一部の抗体産生細胞は全身を巡って鼻や口、喉など全身の粘膜で同様の防衛部隊を作り、再び小腸に戻る。これを「ホーミング」という。病原体が鼻や喉から侵入した場合、これらの部位の扁桃やリンパ節にある司令塔が起点となり、全身の粘膜免疫を活性化する。<br>(図/國澤純氏作成資料をもとに編集)
粘膜の表面はネバネバの粘液層が覆う。病原菌がこの層に近づくと、粘液中に待機するIgA(免疫グロブリン)や抗菌物質が病原体を攻撃し、粘膜内への侵入を阻む。粘膜まで病原体が侵入すると、腸管では、小腸粘膜にある「M細胞」が病原体を呼び込み、その下にある「パイエル板」という免疫細胞が集まった組織に送り込む。すると、司令塔である「樹状細胞」が病原体を待ち受け、その情報を収集。情報を受け取ったB細胞は抗体産生細胞となり、IgAを作る。産生されたIgAは粘膜をくぐり抜けて腸管内で病原体をつかまえ、無力化するよう働く。さらに、一部の抗体産生細胞は全身を巡って鼻や口、喉など全身の粘膜で同様の防衛部隊を作り、再び小腸に戻る。これを「ホーミング」という。病原体が鼻や喉から侵入した場合、これらの部位の扁桃やリンパ節にある司令塔が起点となり、全身の粘膜免疫を活性化する。
(図/國澤純氏作成資料をもとに編集)

ビタミンB1が不足すると粘膜免疫の防御力が低下する

 國澤さんは「腸管には体の半分以上の免疫細胞が集まっていて、IgAはそこでたくさん作られます。IgAはその人の免疫状態を反映する一つの指標となり、同じ人の体内でもその分泌量は常に変化しています」という。免疫の重要な舞台となる小腸は、食事でとった食品成分を体内に吸収する場所でもある。國澤さんは、小腸における食品成分や腸内細菌と免疫との関係について研究してきたが、ある事実を突き止めた。「ビタミンB1が欠乏したエサで飼育したマウスは、腸管のパイエル板、脾臓、リンパ組織など免疫機能を担う重要な組織が大幅に縮小し、ワクチンを打っても抗体がほとんど産生されませんでした(グラフ)。また、免疫細胞であるT細胞を作る胸腺も萎縮していました」。

 ビタミンB1は、豚肉、酵母や小麦胚芽、大豆などに多く含まれる。不足しないよう日々の食事で意識してとりたい。「ビタミンB1はアリシンという成分と合わさると腸管での吸収が促され、血中にも長くとどまります。アリシンは、ニンニク、タマネギ、ニラなどに豊富なので、組み合わせて食べるのがかしこい方法です」(國澤さん)。

ビタミンB1欠乏状態のエサで飼育したマウスはパイエル板が大幅に縮小し、B細胞やT細胞といった免疫細胞も減少していた。また、通常のエサで飼育したマウスと比較し、コレラ毒素ワクチン投与後の糞便中のIgA抗体量も大幅に減少した。<br>(データ:Cell Rep. 2015 Oct 6;13(1):122-131.をもとに改変)
ビタミンB1欠乏状態のエサで飼育したマウスはパイエル板が大幅に縮小し、B細胞やT細胞といった免疫細胞も減少していた。また、通常のエサで飼育したマウスと比較し、コレラ毒素ワクチン投与後の糞便中のIgA抗体量も大幅に減少した。
(データ:Cell Rep. 2015 Oct 6;13(1):122-131.をもとに改変)

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