野阪教授が取り組む新たな経鼻ワクチン開発とは

 野阪教授は、鼻から噴霧する経鼻タイプの新型コロナウイルスワクチンの有効性について、2021年11月に米科学誌「iScience」に論文を発表した[3]。バイオコモと共同開発したのが、運び屋ウイルスである「BC-PIV(ヒトパラインフルエンザ2型ウイルス)」。風邪の原因ウイルスを遺伝子改変し、病原性を最大限に弱めたものだ。安全性が高いこの“運び屋”に、感染を阻止したい目的ウイルスの遺伝子情報を入れたのが、「ウイルスベクターワクチン」。接種するとウイルスの遺伝子情報を抗原提示細胞に運び、それをもとに免疫システムが異物だと認識、ウイルスに対する抗体が産生され、いざウイルスが入ってきてもこれを中和し、働かなくしてしまうという仕組みだ。

 「これまでの注射型のインフルエンザワクチンは粘膜で働くIgAを作ることができませんでした。しかし、鼻粘膜に噴霧するこのワクチンはIgAを強力に誘導し、感染そのものを防御します」(野阪教授)。

 野阪教授は2020年の4月に、運び屋ウイルス「BC-PIV」を用いて実験用の新型コロナウイルスワクチンを作製。2021年1月にハムスターにおける感染実験を実施した。その結果、経鼻ワクチンを1回投与で肺におけるウイルス増殖を完全に抑制、2回投与で、粘膜で覆われた「鼻甲介(びこうかい)」におけるウイルス増殖も強く抑制した。「少なく見積もっても、肺に限らず鼻においてもウイルスの増殖を100万分の1未満に抑えました。動物実験ではありますが、感染をほぼ完璧に抑えることができたのです」(野阪教授)。今後は安全性を確認の上で、ヒトを対象とした治験を経て2年以内の実用化を目指している。

[3]iScience. 2021 Dec 17;24(12):103379, Epub 2021 Nov 17.
鼻からワクチンをスプレーする経鼻ワクチン。ウイルスの侵入口である鼻の粘膜から吸収させることで、全身でIgAなどの抗体が産生され、粘膜免疫を強化。さらには全身免疫も高めてウイルスから体を守る。
鼻からワクチンをスプレーする経鼻ワクチン。ウイルスの侵入口である鼻の粘膜から吸収させることで、全身でIgAなどの抗体が産生され、粘膜免疫を強化。さらには全身免疫も高めてウイルスから体を守る。

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