先行きが見えない介護市場

 「全然眠れていなくて……」。首都圏で介護施設を運営する男性は昨年、目を真っ赤にしてコンサルティング事業者に駆け込んだ。介護スタッフの離職が相次ぎ、人員を別途確保しようにもなかなか来てくれない。日中・夜間ともに人員減の分の仕事を自分でこなしていたが、いよいよ限界を感じ始めた。

 まもなく制度創設から20年がたつ公的介護保険。介護が必要な人は、いわゆる団塊の世代がみな75歳以上になる2025年度には250万人に上るが、担い手は40万人近く足りない。介護事業者の利益率は3%ほどで、5%を超える全産業平均と比べて低い。「本来、民間企業の知恵と工夫を借りながら成長産業になるはずだった介護が、このような末路をたどっている状況は残念でしかたない」。昭和女子大学の八代尚宏特命教授はこう語る。

介護業界の課題を語る昭和女子大学の八代尚宏特命教授
介護業界の課題を語る昭和女子大学の八代尚宏特命教授

 介護事業者が単独で、一般的な民間企業でいうところの「稼げない」「稼ぎにくい」状況を打破するのは難しい。国はこれまで税金を投入して介護スタッフなどの給与水準を上げてきたが、財政上の制約から限界も透ける。

 「人が集まらないなら料金を上げて、その分賃金を上げればいい」。たしかにそんな意見はある。だが、現実的には厳しい。「あと10年と思って資産から介護費を計算して、実際には20年生きることになったらどうするのか」。神戸市でデイサービスを受ける81歳の男性はそう話す。介護費に個人が支払える金額は、実際の余力よりも少なくならざるを得ない。

 八方ふさがりのように見えるが、八代氏は制度設計や制度運用面でも「手直しの余地は多く残っている」と話す。例えば混合介護の扱い。介護保険と保険外のサービスを上手に組み合わせる仕組みだ。今は自治体によって基準があいまいだが、もっと使いやすくして、料金とサービスの自由度を高め、利用者の選択肢を増やす必要があると強調する。

 東京都豊島区は、国の特区を使って混合介護に取り組み始めた。保険適用の訪問介護に、電球の交換、ウェブカメラを使った見守りなど保険外のサービスを加えたメニューを用意している。「それでも追随しようとする自治体より、二の足を踏む自治体のほうが多い」(八代氏)。国も自治体も小手先の人手不足対策ではなく、産業としてどう稼ぐか、どう生産性を上げるのか、という根本の課題に向き合う時期に来ている。

有志から消えていく保育業界

 同じく保育業界も人手不足が深刻化している。「立地がいいばかりに、東京に人材が流れていた」と話すのは、千葉県松戸市幼児保育課の山内将課長補佐だ。松戸市では共働き世帯の増加に伴い、0~2歳の乳幼児保育や、預かり時間を延長する延長保育の需要が急増。市の試算では、2023年には現状より600人の保育士が追加で必要になるという。「すぐ目の前の課題だ」(山内課長補佐)

保育士は資格保有者が多いが、なり手が少ない(写真=PIXTA)
保育士は資格保有者が多いが、なり手が少ない(写真=PIXTA)