人材のために会社全体を変える
注目すべきは新卒社員への教育だけではない。育った人材が活躍できるように、会社全体を変えようとしている点こそ、ダイキン工業の投資の本質かもしれない。
「管理する立場の社員がAIやIoTのことをある程度知らなければ、せっかく育てた専門人材も活躍できない」(山下氏)。各部署にヒアリングした結果わかったのは、専門人材を受け入れる社内の体制づくりが必要ということだった。例えば、AI人材とIT人材を混同しているようなケースが多かった。「両方ともITに関わるからと混同されがちだが、身につけている技術や知識はまったく別物」(同事務局の下津直武担当課長)
データを使って新しい発見などをするAI人材に対して、データを収集・管理する仕組みをつくるのがIT人材だ。AIの研究者の中には、プログラミングができない人も少なくない。AI人材ならばITにも詳しいだろうと、例えばスマートフォンアプリを開発するような業務を担当させても、専門人材としての能力は発揮できないというわけだ。
「育った高度人材が活躍できるように、既存社員にも教育や情報発信をしていく」(山下氏)。会社として重視する技術を明確にし、人材を育て、活躍できる場を整える――。こうして会社としての姿勢をわかりやすく示すことが、育てた人材を会社に定着させ、活躍させるために必要だと同社は考えている。
5年で離職率が半減
近年になって不足が叫ばれ始めた高度人材とは対照的に、昔から企業が確保に苦労しているのが営業人材だ。マイナビが17年に調査した結果では、内勤の社会人の90.5%が営業をやりたくないと回答している。多くの人手が必要にもかかわらず、なりたがる人が少ない職種だ。
そんな営業人材の確保で成果を出しているのが、NTTグループで電話機や複合機、ネットワーク機器などを販売するNTT西日本ビジネスフロントだ。同社の営業担当者は5年間で約700人から1200人へと増加。一方で年間の離職者数は58%減った。やはり重要だったのは、教育の充実だ。
同社は報酬にインセンティブ制度を採用しており、営業担当者は販売実績を伸ばすほど報酬が増えていく。好成績を収める社員が業績をけん引する一方で、得意客のいない若手が思うように成績を伸ばせないことが課題だった。入社1年以内に離職してしまう社員も少なくなかった。
成果が出せないから早くに離職してしまう――。若手の育成のため、研修の充実が始まった。獲得できる人材の変化も研修制度の見直しを後押しした。NTT西日本ビジネスフロントでは中途採用を中心に営業人材を集めていたが、転職市場の活性化や人手不足の加速もあって「営業経験者の割合が減り、2社目として入社してくる20代前半の人材が増えてきた」(営業部販売担当の前原博担当課長)。前職を数年で辞めていて、営業経験どころか社会人経験もほとんどない社員が増えていた。
効果が大きかったのは、TANREN(東京・千代田、佐藤勝彦社長)の動画研修クラウドサービスを使ったロールプレイ研修の導入だ。入社した社員は約1年半の間、営業プロセスの「課題発見」や「商品提案」など毎週出されるお題に対して10〜20分程度の仮想営業をし、その様子をスマートフォンなどを使って動画に撮る。

動画をクラウドにアップロードすると、上長や研修指導をするソリューション・アクト(熊本市、松本寿彦社長)の指導担当者が採点。事前に伝えていた注意点を4段階のスコアで評価するだけでなく、動画の何分何秒のどんな発言やしぐさを変えるべきか、といった細かな指摘をする。
「動画の会話がバッチリでした」。ソリューション・アクトの松本社長は集合研修の場で、NTT西日本ビジネスフロントの若手営業担当者からそう話しかけられた。動画を使ったロールプレイで練習した会話で営業先の課題を聞き出し、商品提案につながったという。その後、案件は契約に至った。
この動画研修を導入したことから、「入社1年未満の離職者がぐっと減った」(営業部販売担当の東浦輝也氏)。ほかにも語彙力向上の研修や、顧客との関係性を構築するための研修などのプログラムも充実させていった。
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