19年1月に寺田町店(大阪市)が新規出店するなど、人材が確保できないわけではない
19年1月に寺田町店(大阪市)が新規出店するなど、人材が確保できないわけではない

 競合大手の牛丼があらかじめ煮込んでいた具を白米によそう調理法なのに対して、東京チカラめしの焼き牛丼は肉を焼く作業が必要になる。具をよそうだけの調理に比べて作業に練習が必要で、調理にも時間がかかる。当時は急に店舗数を増やし過ぎたために調理スタッフの教育が間に合わず、店舗運営に支障が出ていたとみられる。

 実際、採算が合わなくなった店舗が飲食店に向かないほど働き手が少ない地域だったわけではない。14年6月に東京チカラめしの68店舗を買収したガーデン(東京・新宿、川島賢社長)が業態を変え、黒字化に成功していることからも明らかだ。それどころか「立地は一級だった」と、ガーデンの薫田勇営業支援本部長は語る。

 ガーデンは買収した店舗の多くを「家系」と呼ばれるラーメン店へ変えた。牛丼に比べると価格競争が激しくなく、「調理手順がシンプルで教育期間も短くできる」(薫田本部長)のが利点だ。カウンターのみの店舗なら、スタッフ2人でも営業ができる。一通りのスタッフ教育と管理体制の構築ができると、店舗経営は一気に改善した。

 ビジネス街に近い店舗は特に業態転換の影響が大きかった。ランチタイムの限られた時間に多くの客が押し寄せるビジネス街では、商品提供の時間を短くして客の回転率を高める必要がある。その点、東京チカラめしは肉を焼く調理作業に時間がかかり、回転率を高めるのが難しかった。新業態ではメニューの数を絞るなど、ビジネス街に合わせて短時間で商品を提供できる体制を整えていった。

 ガーデンはわずか半年で買収した全店の業態を変え、次々と黒字化していった。だが、このハイペースでの業態転換は「普通ではない」(薫田本部長)という。東京チカラめしが急な拡大によって店舗スタッフの教育が間に合わなかったように、いくつもの店舗を次々と業態転換させていくのは、同じように教育が間に合わなくなる恐れがあったからだ。

 採算の合いやすい業態に変わっても、スタッフがついてこなければ業務の効率が悪くなってしまったり、離職者が相次いで本当に人手不足になったりしかねない。各店の赤字を一刻も早くなんとかしたかったが、「プロジェクトチームが1店舗ずつ入り、確実に運営が回るようになってから次の店へ向かうようにしていた」(薫田本部長)。時間がない中でも従業員教育に手を抜かず、無理なく店舗運営ができるように管理体制を整えるまでの手間を惜しまなかったことが黒字化のひけつだという。

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