提供:ダイセル

創業から100年以上、暮らしに役立つ化学素材を作り続けてきた企業のダイセル。次世代に向け、同社は新たな挑戦を開始した。日本の木材資源を最大限に活かす「バイオマスバリューチェーン構想」について、同社代表取締役社長の小河義美氏に聞く。

創業から持続可能性に配慮してきた100年企業

 1919年、国内主要セルロイドメーカー8社が合併して設立したダイセル。当時、第一次世界大戦の特需でセルロイドメーカーが乱立し、原料であるクスノキの乱伐が問題となっていた。この状況を憂い、業界再編によって限りある天然資源を守り、共存共栄を目的として誕生した経緯がある。

 その後に主力製品となった酢酸セルロースをはじめ、ダイセルはバイオマス素材の分野をリードしてきた。セルロースは樹木や草本の主成分であり、地球上で最も多く存在する炭水化物である。ダイセルはセルロースに結合させる酢酸の数をコントロールすることで生分解性を含む様々な機能を付与した酢酸セルロースの製造技術を有している。生分解性の高い酢酸セルロースは、一定条件のもと数年で自然界に還るとされる。石油系プラスチックが数十~数百年かかることを鑑みると、圧倒的な早さだ。同社の酢酸セルロース新製品「CAFBLO™(キャフブロ)」は海水中の生分解性を大幅に向上させ、海洋生分解性に関する国際認証「OK biodegradable MARINE」を取得している。

 このようにダイセルでは、社会全体の持続可能性を基本理念に置くDNAが脈々と受け継がれてきた。その精神は、まさにSDGsを先取りしたものと言える。2019年、創業100年の節目に代表取締役社長に就任した小河義美氏は、同社初の技術者出身。化学など装置型産業における生産プロセスの革新的手法「ダイセル式生産革新」を確立した人物として、製造業界ではつとに有名な人物だ。2020年度に制定したサステナブル経営方針には、最前線の現場を見てきた小河氏だからこその思いが込められている。

 「バイオマスに注力してきたダイセルにとって、SDGsはトリガーと捉えています。サステナブル経営方針では、Product(製品)、Process(プロセス)、People(働く人)の3つのサステナビリティを掲げました。良質な製品だけではなく、製造プロセスもサステナブルでなくてはならない。そして働く人たちが世の中に貢献しているとの誇りを持ってモノづくりに励むことが大切だからです」(小河氏)

ダイセル 代表取締役社長 小河 義美氏
ダイセル 代表取締役社長 小河 義美氏

 ダイセルは100年以上にわたり培ってきた技術と知見を武器に、日本の未来を変えるチャレンジを開始した。2021年度に策定した中期戦略「Accelerate 2025-Ⅱ」で掲げた「新バイオマスプロダクトツリー」は、その姿勢を具現化したものだ。

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 「新バイオマスプロダクトツリーとは、バイオマスの新しい変換プロセスのことで、木材などの天然資源を『溶かす』ことにより、再生産可能な資源として活用するとともに、これまでにない新たな機能性材料群を開発することを指します。

 酢酸セルロースは高い生分解性があり、社会から期待を集めている素材ですが、原料のセルロースを木材から抽出する工程や製品の製造工程で大量のエネルギーを消費するという弱点があります。製品としては環境に優しくても、プロセスがサステナブルではありません。これが長年の課題でしたが、新しい木材溶解プロセスならエネルギー消費を抑えることができます。

 同様の機能性素材として、セルロイドや酢酸セルロースより後から登場した石油系プラスチックが浸透した理由は、元が液体で化学反応させやすく、さまざまな化学製品を作ることができたこと、それによって成型加工性の良い多様なプラスチックが安価に量産できたことにあります。

 しかし木を溶かすことでセルロースなど木の主成分を化学反応させるバリエーションが広がり、これまで以上に天然素材を使った新製品がラインアップできます。つまり木を溶かす技術によってプロセス・プロダクト双方にメリットが生まれ、バイオマス素材を用いた製品が石油製品の代替となる可能性が見えてきます。これを活用しない手はないと考えました」(小河氏)

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