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 日経ビジネスの3月11日号特集「韓国 何が起きているのか」では、対日強硬姿勢を変えようとしないかのような韓国・文在寅(ムン・ジェイン)政権の動きを取り上げた。その裏に新たな変化があると韓国政治が専門の木村幹・神戸大学大学院国際協力研究科教授は見る。米国への日本の影響力の低下だ。文政権は米国の対北朝鮮政策への日本の影響力が低下したと見て、長年の問題解消に動き出したという。

木村幹(きむら・かん)氏
1966年生まれ。93年、京都大学博士課程中退。97年、神戸大学大学院国際協力研究科助教授。2005年、同研究科教授。17年、神戸大学アジア学術総合センター長兼務。韓国政治の専門家として知られる。

文在寅大統領が2017年5月に就任して間もなく2年になります。この間の日韓関係悪化は、文大統領が歴史的に日本に厳しい左派系だからという見方があります。どう見ていますか。

 韓国で言う進歩派だから日本に厳しいとよく評されますが、保守派、進歩派の違いはもう関係なくなっています。現に朴槿恵(パク・クネ)前大統領は保守派ですが、慰安婦問題を中心に、日本に対して強硬でした。

 文大統領も就任当初は、それほど日本に対して反感を見せてはいませんでした。それが大きく変わったのは2018年春以降です。その頃までは日本に対して一定の配慮をしていました。だから朴前大統領が行った慰安婦合意も即座に破棄はしませんでした。

しかし、大統領選では慰安婦合意の見直しも掲げていたはずです。

 そのとおりです。でも、当初は「新方針」などといっても、合意そのものを全部ひっくり返すということではありませんでした。この時点での主張は、「(朴前大統領時代の)合意によって全部解決したわけではない。だから日本にも一定の努力をして欲しい」というところまででした。

日本の位置づけが変わった

つまりどういう対日姿勢だったといえるのでしょう。

 韓国の首相(国務総理)は当時、日本人記者を集めて懇談もしていました。文政権には対日、対中とも特段の姿勢はなかったように感じます。ただ、北朝鮮との対話は進めたいという思いは強くあった。そのために、何より米国の了解を取り付けたい。しかし、日本は拉致問題の解決のためにそれに反対し、足を引っ張るだろうとみていたのです。

 ところが、米朝で首脳会談を開くことを昨年4月、トランプ米大統領に提案してみたら一発でOKになった。日本の世論は北朝鮮への接近に反発していましたが、日本の(政治)力は対米に関しては、意外にないのだと彼らは感じたのです。安倍・トランプ関係は良好と言われてきたけれども、米国への影響力はそれほどではない、という理解が生まれた。こうして彼らの頭の中での日本の位置づけが変わったわけです。