日経ビジネス3月11日号の特集「韓国 何が起きているのか」では、韓国の政治や経済の現状と同時に、財閥が世論に翻弄される様子を紹介した。「財閥の中の財閥」と言われるのがサムスングループだ。その事実上のトップである李在鎔(イ・ジェヨン)サムスン電子副会長は、韓国の景気浮揚への貢献を期待されながら、常に世論の逆風にもさらされている。

朴槿恵(パク・クネ)前大統領側への贈賄事件の一審で有罪となった李氏は、2018年2月の二審で執行猶予となり、1年ぶりに拘置所を出た。7月にはインドで完成した携帯電話機工場の新棟の記念式典に文在寅(ムン・ジェイン)大統領とともに参加している。グループ総帥として企業集団を率いる姿勢を外部に示したようだ。
年内にも上告審が控えており、今後もしばらくは表立って発言したり、必要以上に目立った活動をしたりすることはなさそう。しかし本来の李氏は取引先やグループ内のあちこちに顔を出し、積極的に話しかけるタイプの経営者だ。
李氏は1男3女の長男として、小さい頃からグループ経営を世襲すると周囲に見られながら英才教育を受けて育った。ソウル大で東洋史を学び、慶大と米ハーバード大の大学院で経営学を専攻した。英語に加えて日本語も堪能。日本の取引先からは「人当たりが柔らかく、礼儀正しい」との評価が定着しており、御曹司の雰囲気を漂わせている。
メディアに抱負を問われて「さらに謙虚に、賢明でありたい」と答えたことがある。海外法人に出向くと現地社員の名前を呼んで「あなたのことはよく聞いています。よろしくお願いします」と話しかける。日本人と食事をした際は日本メーカーのビールを注文して「やっぱりおいしいですね」と言う。相手に配慮したような発言ばかりが目立つ。
頭を下げて謙虚に人の話を聞けという父、李健熙(イ・ゴンヒ)会長の授けた帝王学を忠実に守っているようだ。韓国で財閥は庶民の憧れであると同時に嫉妬の対象。特権を得ていると思われている財閥の中でもサムスンは常に世論の批判にさらされる。そういう意味からも謙虚な振る舞いが習い性となっているのだろう。
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