かつては多くの家で設置されていた神棚。江戸時代から昭和初期ころまでは、家庭には当たり前のようにあったものだ。

 だが、現在のマンションや賃貸住宅では神棚を設置する場所が確保しにくく、神棚のある家庭は少なくなっているのではないだろうか。しかし、設置できるなら神棚をしつらえたいというニーズはきっとあるはず、とそこにビジネスチャンスを見いだした企業がある。静岡県で木製家具の製造を営んでいた静岡木工(静岡県吉田町)だ。神棚に特化した事業を成功させ、一時は右肩下がりとなった業績をV字回復させている。

 そんな静岡木工代表取締役社長の杉本かづ行氏に話を聞いた。

木製家具から神棚に特化

モダンでありながら神棚としての格調の高さも兼ね備えた「かみさまの線」シリーズ。洋風のリビングにも違和感なく置けそうだ
モダンでありながら神棚としての格調の高さも兼ね備えた「かみさまの線」シリーズ。洋風のリビングにも違和感なく置けそうだ

神棚はニッチなビジネスマーケットです。木製家具の製造から神棚製造に特化し、製造から販売までを手がける企業に変化させましたが、そのきっかけは何だったのでしょうか?

杉本かづ行社長(以下、杉本氏):1961年(昭和36年)に弊社の前身となる杉本木工が設立されました。ホームセンターや家具店に木製家具(神棚を含む)などを卸していたのですが、次第に海外に生産拠点を置く競合他社との価格競争に巻き込まれていきました。最終的には、利益は出ないけれども会社存続のために生産を続けるという状況になってしまいました。

 家具として売れ筋の製品を作っても、すぐに競合他社が模倣製品を海外生産して展開してくる。そうした環境下において、国内で国産の木製品を製造し続けることが難しくなっていました。

 そんな中、2代目社長がオンラインショップを開設。2006年(平成18年)には神棚専門のECショップ「神棚の里」を立ち上げました。その後、12年(平成24年)に私が代表となったタイミングで事業を神棚に絞り込むことを決めました。そして「モダン神棚」という商品ジャンルを開拓し、事業を拡大させていったのです。

2006年(平成18年)に立ち上げた神棚専門のWebサイト(画像は当時)。ECの専門チームを作ったものの、最初は認知されず、売り上げよりも人件費として出ていくお金の方が多かったという
2006年(平成18年)に立ち上げた神棚専門のWebサイト(画像は当時)。ECの専門チームを作ったものの、最初は認知されず、売り上げよりも人件費として出ていくお金の方が多かったという
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転機となったモダン神棚とはどういったものなんですか?

杉本氏:従来の神棚は、「神様の家」として大きく立派なものが一般的でした。旧来の日本家屋ならそれでよかったのですが、残念ながら現代の住宅にはミスマッチな部分がありました。

 商品開発で目指したのは、神棚の機能を保ちつつ、現代の住宅の雰囲気に合うものを作るということです。和室が減って住環境が洋風になっていく中、「神棚だけが時代に取り残されている」という強い危機感がありました。ただ、そうした変化に合わせた商品を作ればヒットするという思いはありました。

ヒットの兆しはどこで感じましたか?

杉本氏:ECショップからですね。従来の卸し経由での販売では、ホームセンターなどの店舗から間接的にしか顧客の声を聞けませんでした。しかし、ECサイトだと「もっとシンプルなものが欲しい」「コンパクトでおしゃれな神棚はないか」といったリクエストが直接会社に届きます。多くの人が、現代に合った神棚を探していることが感じられ、そのニーズにマッチした神棚を開発できればヒットすると思いました。

 ただ、家具の製造をやめて、経営を全て神棚製造に集中させると宣言したときには、周囲から多くの反対がありました。

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