サントリースピリッツが2020年3月に発売した国産のジン「翠(すい)」が好調だ。20年の販売実績は9万5000ケースと、当初目標の3倍超。SNS上でも「薬草臭さがなくスッキリと飲める」「柚子(ゆず)の香りが爽やか」などと話題になり、国産ジン市場トップに躍り出た。

 需要の急増を受け、同社は約32億円を投じて大阪工場(大阪市)にジンの生産ラインを増設する。従来はバーで食前酒や食後酒として飲まれることが多かったジンを、食中酒として提案し直すことで顧客の裾野を広げている。

2020年10月から「翠」を扱う、博多餃子舎603渋谷店(東京・渋谷)。「1人で2~3杯飲んでいくお客さんもいる」(同店)という

 近年、ジン市場は世界的に拡大している。健康志向の高まりから、プリン体や糖質がほとんど含まれず、さっぱりとした味のジンが好まれるようになった。19年の世界のジン市場は09年比で4割増。日本でも、20年12月のジンの販売金額が、直近の10年で最高となるなど、人気が高まっている。

 日本市場の伸びをけん引しているのが、国産のジンだ。ジン専門の蒸溜(じょうりゅう)所を運営する京都蒸溜所(京都市)が16年に国産ジン「季の美 京都ドライジン」を発売するなど、各地で特色のあるジンづくりが盛んになっている。サントリースピリッツも17年に国産ジン「ROKU(ロク)」を発売した。

「食中酒」として提案

 国産のジン市場は競争が激しくなっており、新しい商品を投入すれば自社の商品と食い合いになって共倒れになりそうにも見える。だが、サントリーは飲み方の提案を工夫すれば販売を拡大できると見た。

 キーワードが食中酒だ。海外ではアペリティフ(食前酒)や食後酒の習慣が定着しているが、日本では食中にお酒を飲むことも多い。サントリースピリッツRTD・LS事業部事業開発部の佐藤純氏は「日本人のお客様に受け入れられるためには、食中に飲んでもらうことが不可欠」と言う。

 そこで、一般的なジンの原料で、独特の苦味があるジュニパーベリーの使用を控えめにする一方、日本人になじみ深い柚子(ゆず)や緑茶、ショウガを配合することで、日本の食事に合うようにした。

 柚子の香味を出すために、柚子の皮や凍らせて粉状にした柚子など複数の素材を組み合わせる工夫も施した。ソーダで割って飲むことを推奨しており、唐揚げやポテトサラダなど居酒屋メニューによく合うとアピールした。700ミリリットル入り1本の希望小売価格は一般的な国産ジンの3分の1程度の1380円(税別)と、手に取ってもらいやすい価格に設定した。

「角瓶」より長い歴史

 実は、サントリーのジンづくりの歴史は長い。最初のジンの発売は1936年で、ウイスキー「角瓶」の1年前である。この長年の経験から、使う機械や製造の各工程での温度や、かけるべき時間など、ジンづくりについて豊富なノウハウを持っていたことも、翠の開発に役立った。

 中身はつくり込めたが、マーケティングには誤算があった。新型コロナの感染拡大だ。

続きを読む 2/2 取扱店は当初計画の5倍に

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