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 昨年、20年ぶりにフルモデルチェンジ(全面刷新)したスズキ「ジムニー」が売れている。2018年7月の発売から7カ月間で、年間目標だった1万5000台を超える販売台数を記録。バックオーダーが急増したため今年1月から1.5倍の生産体制を整えた。それでもまだ納車に数カ月かかるものもあるという。

1970年に発売されたジムニーは今年で「49歳」。20年ぶりに刷新した新型では蛍光色も追加した。レスキュー隊など目立ちたい「働くクルマ」向けだ

 軽自動車(兄弟車「ジムニー シエラ」はコンパクトカー)なのに本格的な四駆の乗り味が楽しめるジムニー。これまでは、険しい山道を走る林業や冬に路面が凍結する地域での郵便・新聞配達など「厳しい環境下で働くクルマ」として活用されるシーンが多かった。従来の顧客層の中心は、商用か、商用でも使える本格四駆を好むカーガイたち。ところが新型では、四駆に乗ったことのなかった層やファッションを楽しむ女性などにファンを広げた。

 これまでにない顧客の心をつかんだのだから、よほど見た目を変えたのかと思いきや、そうでもない。角ばった車体に真ん丸のヘッドライト。きらびやかな装飾や今時のクルマに多い流線系のデザインからは一線を画し、無骨ながらも車内空間が広く、荷物もたくさん載せられる機能面を引き立たせた。「とにかく本物にこだわった。北海道や長野県など、実際に林業や配達業でジムニーを使っている現場に出向き、徹底的に顧客の声を聞いた」(開発責任者の米澤宏之チーフエンジニア)結果をデザインにも反映した。

「変えるべきところと変えずに残すところを明確にした」と米澤チーフエンジニア

 使い勝手にもこだわった。深い山道では道なき道を行く。左右上下に大きく振られるような凸凹の道を安全に走行するには、ウインドシールドの視界をできるだけ広くすることが欠かせない。そのため新型では、Aピラーと呼ばれるフロントガラスを支える左右2本の柱を垂直方向に立たせ、Aピラーがドライバーの視界を遮りにくくした。さらにぬかるんだ道でタイヤが泥にはまってしまった場合を想定し、はまったタイヤを自動で検知して、そこのグリップを強化するようにブレーキを自動制御する最新技術も搭載した。

 「機能面にはおしみなく技術やコストを投入し、必要のない部分に潜むムダは徹底的に排除する」(米澤チーフエンジニア)。これを極めれば見た目もより男性向けになりがちだが、女性の心をもつかむことに成功したのにはワケがある。見た目も機能もより「とがった」ことで、インスタグラムなどで他人に自慢したくなる本格感が際立つクルマになったからだ。

 実は今回のヒットを陰で支えているのが、初めてジムニーを購入した人などがインスタグラムなどのSNSにアップしている記事だ。かわいらしいロングドレスを着た女性がジムニーの前に立って写したショットや、ジムニーに愛犬を乗せてキャンプを楽しむ様子を撮影した写真や動画をインスタに上げる。これを見た同世代や同じような趣味を持つ人たちが「ジムニーは本格派なのにかわいい」と反応し、またそれがSNSで広がる――。これが、従来のようにモータージャーナリストがアップした記事を好んで読むカーガイとは別の層にヒットしたと考えられる。

 1970年の発売から約50年。「中高年」の域に達したジムニーの味わいがより深まったことで今、他の人と同じであることを嫌う若い世代に受けている。若者にこびない本格感の追究は、クルマに限らずあらゆる商品のヒットの条件になりそうだ。