東京を中心にする展開する立ち食いそばチェーン「名代 富士そば(以下富士そば)」。店舗数は131(2019年3月現在)を数え、「小諸そば」「ゆで太郎」と並ぶ、首都圏立ち食いそば大手の一角だ。その富士そばが1月から売り出した「ポテトチップスそば・うどん(以下、ポテチそば)」が人気を集め、提供エリアを徐々に拡げている。店で揚げた熱々のポテトチップス(のりしお味)を、そば・うどんに載せて提供するユニークな商品だ。

販売開始時点では津田沼、町田、荻窪とわずか3店の限定メニューだったが、ネットニュース「ねとらぼ」での紹介(こちら)をきっかけに火が付いた。最大で1日50食出たという。現在でも15食前後が出る。提供する店舗数は2月5日に16店、そして3月には21店に拡大した。
富士そばの店舗数は131で、全体で見ればまだこれからのように感じられる。そもそも、「3→16→21」というペース自体が不思議といえば不思議だ。これには富士そばならではの理由があり、「ヒットの理由」もそこから見えてくる。
「富士そば」の経営は、親会社としてダイタンホールディングス(本社東京)があり、傘下の国内7社、海外1社の事業会社が店舗を経営している。ポテチそばを開発・導入したのは「ダイタンイート株式会社」。グループの中では設立が5番目で、店舗数は23だ。
持ち株会社と事業会社を分ける場合、前者は間接部門を集約し、商品企画なども行うことで重複する費用を削り、事業会社間の共食いを避けるべく、事業範囲やエリアが重ならないように調整するのが常道だ。ところがダイタングループは、傘下の会社の営業範囲をエリア分けせず、「自由に出店してよし」としている。
「店舗案内」を見ていただくと一目瞭然。例えば主要ターミナルの一つ、池袋駅で見てみると「池袋店」を経営するのはダイタン企画株式会社、「池袋東口店」を経営するのは「ダイタン食品株式会社」、「池袋西口店」は「ダイタンイート株式会社」と、他のチェーンもひしめく激戦区で、3つのグループ企業が競い合っている。各社は独立採算制で、商品を統括する、「商品開発本部」のような部署もない。
「16」は、ダイタンイートの中で、ほぼ全店でポテチそばが提供されるようになった、ということだ。23にならなかったのは、冷凍ポテトチップスを保管する冷蔵設備などに余裕がない、古い店舗があったため。それが「21」になったのは、“ライバル”である他のグループ会社も、ダイタンイートが開発したメニューを出し始めた、ということだ。まだ1社のみ、店舗数も5店での提供だが、グループ会社の垣根を越えて、ヒットが本物になりつつあることを示す。すでに他のグループ会社からの打診もあるという。
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