提供:株式会社リクルート

2019年3月にリクルートは「定年前後の転職者の採用・受け入れ実態調査」を発表(※1)。ここからシニア採用に関する意外な事実が明らかになった。調査から見えてくる未来を、リクルートワークス研究所の大久保幸夫所長に聞いた。
(※1)調査の対象は55~64歳の定年前後の人材
リクルート 専門役員
兼 リクルートワークス研究所所長
大久保 幸夫 氏

シニア活用の重要性に気づいた企業は、もう動き出している

 一般に、シニアの労働市場は停滞しているというイメージがある。人材不足にもかかわらず、定年前後のシニアの再就職は難しく、受け入れ企業側の体制も整っていない――。

 だが今回のリクルートの調査によると、企業の規模を問わず、約6割に定年前後(55歳~64歳)の人材に対して採用意向があることが分かった。また企業規模が大きくなるにつれて、採用意向が上昇していることも判明した。また内閣府の調査では、現在仕事をしている60歳以上の約8割が「70歳くらいまで、もしくはそれ以上働きたい」と回答し、シニア自身も高い就業意欲を持つ様子がうかがえる(※2)。

(※2)出所:内閣府「高齢者の日常生活に関する意識調査」(平成26年) (注)調査対象は、全国60歳以上の男女。現在仕事をしている者のみの再集計

 つまりシニアの労働市場は、潜在的に大きな可能性を有しているのだ。

企業規模を問わず約6割に定年前後の転職者に対して採用意向があり、明確にネガティブな回答は1割以下。企業規模が大きくなるにつれて、採用意向は上昇している。<出典>リクルート「定年前後の転職者の採用・受け入れ実態調査」

 バブル期に大量採用された世代は、あと10年ほどで定年を迎え、団塊ジュニア世代がその後に続く。厚生労働省の推計によると、2040年には就労者の4分の1が高齢者になるといわれている。人材不足を考えると、シニアの労働市場の活発化は急務といえる。だが、足元でシニアの雇用はなかなか進んでいない。それはなぜなのか?大久保幸夫所長はこう分析する。

 「まず、年功序列で培われてきた企業風土の中で、“年上の部下”をマネジメントすることに対する抵抗感が強く残っていることがあります。シニアも“年下の上司”の下では、気持ちよく働けないという思いがある。もう一つは、2013年の高年齢者雇用安定法の改正によって、希望すれば65歳までの再雇用が可能になったこと。企業としては自社のシニアを優先的に雇うため、外部から受け入れる余裕がなくなっているのです」

 65歳までの再雇用は、55歳での“役職定年”を考えると、定年前後世代に10年間の空白期間を生む。大久保所長はこれを“職業人生のロスタイム”と呼ぶ。会社に再雇用してもらえるという安心材料ができたため、結果的に何の準備もなく定年を迎えるシニアが多くなった。定年でいきなり会社を放り出されても、何の準備をすればいいのかすら分からない。こうした構造も、シニアの雇用が本格的に進展しない状況の一端となっている。

 だが、そもそも企業にとってなぜ今シニアの雇用が必要なのか。

 「例えば“女性活躍”の場が増えたのは、人材不足の問題もありますが、消費の意思決定者が女性のケースが多いからです。いわば女性の意思でマーケットは動いていた。その女性の心を掴むサービスや商品を生み出せる会社でなければ、売り上げは伸びなかったのです。現在は高齢化社会で、すでに高齢者が人口の多くを占めています。その高齢者の心を掴むためには、若手だけのチームでは駄目で、一定比率のシニアが入っていなければヒット商品は生まれない。その意味で、シニアを生かせる企業でなければ、今後生き残っていくことは難しいのです」

 それに気づいた企業は、すでに動き出していると大久保所長は語る。

シニアの受け入れは、従業員のロイヤリティ向上につながる

 今回の調査からは、企業が定年前後での転職者を受け入れることで、人材確保以外にも多くのメリットがあることが調査から明らかになっている。

 例えば、採用意欲の高い企業は、会社や事業への効果として「新しい知識やものの見方を得られた」「周囲のメンバーのスキルアップにつながっている」「採用した人材が活躍することで、同年代への良いプレッシャーになっている」などを高く評価している。

 さらに職場の同僚・上司への調査では、興味深い結果が得られた。受け入れ意欲が高い職場の同僚・上司の多くは、定年前後での転職者に対して「人柄が良い」「礼儀正しい」「話しかけやすい」といった人柄面を評価しながら、シニアの受け入れによって「自社の経営にとって良い影響があると思う」「会社の姿勢に良い印象を受けた」と感じていたのだ。

 「シニアの受け入れが、従業員のロイヤリティ向上のきっかけになったという回答は、想定外でしたね。確かに、シニアが社内で生き生きと活躍している姿は、若い世代にとっては将来の良きロールモデルであり、既存社員の活性化にもつながります。自社の経営姿勢について好印象を持つことは、企業評価の向上を意味するため、シニアの受け入れがいずれ社外から評価されるシンボリックな指標になる可能性もあります」

 その一方で、採用意向にかかわらず企業は、定年前後の転職者の受け入れについて「健康状態や体力面に不安がある」「仕事を覚えるのに時間がかかる」「これまでの仕事のやり方を改められない」「目標の設定が難しい」「仕事を覚えてもすぐに定年を迎えてしまう」などを課題視していることが分かった。企業にとっても、このあたりの課題を解決することが、シニアの転職を成功させるポイントになることが分かる。

 「シニアに限らず転職全体にいえることですが、中途採用の場合、企業文化や組織になじませるサポートがとても重要になります。転職先でいきなり“お手並み拝見”と期待されるのは、かなりしんどいです。どんな転職でもカルチャーショックはあり、いくら力やスキルがあっても、仕事のやり方に慣れる時間は必要。余裕を持って受け入れる姿勢を持つことが、中途採用を成功させるポイントで、シニアの場合はとくにそこが大切になります」

 実際に、採用意向の高い企業は、「転職者本人と不定期でよく話すようにしている」「体調面をケアしている」「周囲とのコミュニケーション状況をケアしている」など、日頃からコミュニケーションを積極的に図り、ケアを心がけていることが調査結果から分かる。

 「シニアのマネジメントは実はシンプルで、その人の得意なことを期待してあげる、ということに尽きます。その人の強みが仕事のパフォーマンスにつながれば、周囲もリスペクトして迎え入れてくれる。そのためには、話をよく聞いて、価値観を受け止め、人間関係をつくっていく必要がある。若い世代よりもシニアの方が、個性がはっきりして、個人差も大きい。その個性をどう生かすかが、シニアマネジメントの要諦になります」

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