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ライフの充実のために都会へ戻っても、理想通りにはいかない人もいる(写真=Qi Yang/Getty Images)

 働き方改革を進める中ですっかり定着した「ワークライフバランス」という言葉。だが日本ではまだまだそれを極められる職場は少なくない。日経ビジネス2月18日号「どこにある? ベストな人生」では、今の日本で、本当にワークライフバランスを極められる仕事は限られるという結論に達した。

 例えば、他人との仕事の分担が明確な上、交代制などによって1日の労働時間も厳密に決められている職場で、正社員以外の職種で働くことだ。これなら自分の仕事量の上限を比較的遠慮なく制限できるし、現実に、地方の工場などには、“ライフ”を充実させるためフリーターや期間工などとして働く人も少なくない。だがその場合、収入が不安定になりかねないという新たな問題が発生する。

「バランスを追い求めた旅」の結末

 ワークライフバランスを極めつつ収入を安定させる方法はないか。現在、関西に住む30歳のC氏はそんな難題を解こうと奮闘してきた女性だ。

 就職活動で最も重視したポイントは「ライフ」を充実させること。そのためには生活には十分な収入と残業の少ない職場の両立が欠かせないと考えた。仲間内では最初に内定を獲得したが、「もっといい会社があるかもしれない」と最後まで様々な企業を研究し、就職活動を続けた。そんな彼女が大学院修了後に選んだのは、地元に本社を置くメーカーの、生産工場に併設された研究部門だった。

 特殊な加工をする地方工場の稼働時間は朝9時から夕方5時まで。繁忙期でも6時には生産が終わる。品質管理と生産技術開発をする研究部門も工場に合わせた労働時間で、残業はほとんどない。

 それでいて、研究部門に配属されたC氏の収入は、理系修士号を持った専門職だけあって悪くない。配属当初は、一定の収入を確保しながらプライベートを充実させられる、ワークライフバランスを極められる理想の職場だと思ったという。

 だが、C氏は配属から2年も経たず本社の営業への異動希望を出す。「買い物に行くのに車で30分もかかり、遊ぶ場所も少ない。時間とお金があっても、全くライフを充実させられない」と感じたからだ。何より地元に残してきた恋人とのすれ違いの生活をなんとかしたかった。確かに仕事はほどほどで収入もある。だが趣味も恋も何もできない。

 営業職として地元に戻ったC氏は、希望通り都会の刺激的な生活を送れるようになり、地元に帰ってきたことで恋人との遠距離恋愛は解消した。

 だが、今度は別の問題が発生した。ワークが一気にきつくなったのだ。

 残業時間は増え、専門職ではなく入社1年目の一般職と同じ扱いになったため収入は減少。大学院で学んだ専門知識も生かせず、職場では専門学校卒で年下の先輩社員から仕事を教わることになった。

 その分、趣味や恋愛が楽しくなればよかったが、現実は、恋人との物理的な距離は縮まったのに、残業や休日出勤で時間が合わず一緒に過ごす時間がなかなか取れない。「遠距離だと我慢できたことが、近くにいるとかえって我慢できなくなっていった」(C氏)。結局、C氏が地元に帰って1年もしないうちに二人は別れてしまった。その後C氏は一人暮らしをやめ、実家に戻った。異動による収入減をカバーするためだ。

 「余暇時間の確保と収入の安定を高いレベルで両立できる仕事はあるが、勤務地が地方だったり労働時間帯が夜間だったりと生活を充実させにくい。これ以上のワークライフバランスを求めるより、現状で満足することにした」とC氏は話す。