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 玩具メーカーのタカラ(現在はタカラトミー)の創業者、佐藤安太さんが2月26日、亡くなりました。94歳でした。

 佐藤さんは、「だっこちゃん」「リカちゃん」「人生ゲーム」「チョロQ」「トランスフォーマー」など、数々のおもちゃをヒットさせてきました。77歳でタカラから完全に退きましたが、その後は第2の人生として人材育成に注力。ご自身も86歳の時に山形大学で博士号を取得するほど、意欲的に活動を続けていました。

 佐藤さんを突き動かしていたのは、戦争で「生かされた」との思いでした。日経ビジネスが2014年12月29日号に掲載した戦後70年の特別企画、特集「遺言 日本の未来へ」の取材で、佐藤さんは壮絶な戦争体験を語ってくださいました。

 取材では、デジタル化が進む中で、手などの身体を使って友達と遊ぶ昔ながらの玩具には、まだまだ子供たちを魅了する力があり、その後の人生を豊かにすると力説していたのも印象的でした。

 「おもちゃでうまく遊べた人は、やっぱり人生も楽しむことができる。だからこそ、大切なんです」

 佐藤さんは「遺言」として、幸せと徳を同時に追求する「幸徳文化国家」を実現しようと、私たちに呼びかけます。戦争で打ちひしがれた日本は復興を果たし、豊かさの中で昭和から平成へと時代が変わりました。そして今こそ、「本当に自由に国家のビジョンを作っていく時が来ている」と語ります。

 日本人特有のクリエイティブな世界観は、国境や人種、宗教、世代を超える力がある――。

 佐藤さんが編集部に託してくれた「遺言」を再掲載します。

 ご冥福をお祈りいたします。

おもちゃの王様
佐藤安太(さとう・やすた)
1955年にタカラ(現タカラトミー)の前身・佐藤ビニール工業所を創業。「だっこちゃん」「リカちゃん」「人生ゲーム」「チョロQ」などのヒット商品を連発する。2000年に会長退任。第2の人生はライフマネジメントセンター(NPO法人)を設立し、人材育成に注力。生涯教育を実践し、86歳で山形大学で博士号を取得した。1924年3月生まれ。(写真:的野弘路、以下同)

 今回、こうして生きているうちに遺言を残す機会をいただいて、本当に感謝しております。人生を1マス5年の「人生ゲーム」に例えると、私に残されたのはせいぜいあと2マスでしょう。最後まで、人生の完成度を高めるために、これを機会に日本の未来について思いを巡らせてみたいと思います。

 私のこれまでの人生は、「生かされた」ものだと思っています。

 昭和20年4月12日のことです。その日、身を隠していた防空壕に爆弾が直撃して、その場にいた約30人全員が生き埋めになりました。そこで私は唯一、掘り出されて生き残りました。

 当時私は、福島県郡山市の、アメリカに言わせれば「秘密軍事工場」で働いていました。そこをB29が集中爆撃をしてきたのです。工場が完全に破壊されるまで、徹底的にやられました。