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あの時は、新聞記者が流出している顧客リストを持ってきて、「明日の朝刊に出します」と言ってきた。

前例なき事件

髙田:はい。まあ事実ですからね。それは、もう変えようがないことです。でも、社内で完全に信頼していましたから、犯人をね。(容疑者として逮捕された2人は)会社の行事にしょっちゅう顔を出していましたから。やっぱりショックを受けました。

 でも、私はそのことに気付かずに、一心不乱にビジネスに集中していた。そこはトップとしての反省がありました。人は環境によってどうにでもなりますから。

社員が顧客情報を抜き取っていたのは1990年代後半でした。

髙田:ですから、それが犯罪になるという意識さえも、なかったのかなと、今になって思うところもありますね。

巨大な顧客データの流出は、当時は前例がほとんど出ていませんでしたね。

髙田:ちょうど同じ時期に、ソフトバンクさんの顧客情報が流出したんですよね。でも、当時はうちとソフトバンクさんぐらいですから。情報が企業の中で大切なものだという認識が出てき始めたときです。今は情報管理の大切さは広まっていますがね。当時は電話帳を見ても、たいていの名前と住所、電話番号が載っていたわけですから。

そうですね。かつては当たり前のように電話ボックスや喫茶店に置いてあって、個人の住所も分かりました。だいぶ個人情報をめぐる状況は変わりました。

髙田:体制を万全にしていても起こり得ることだという前提で、企業経営をしていかなきゃいけない。便利になる反面、難しくなりますね。そこに投資をしていかなきゃいけないしね。情報を守るというのは、人件費と同じような、必要経費だと。「余計なカネが掛かった」と思っていたら、情報は守れない。

事件後、監視体制を早い段階で整備しましたね。

髙田:監視カメラを部屋にばーっと付けた。でも、その時、社員が「監視されているんだ」と思うか、僕は結構考えましたね。それで、「そこに監視カメラがあるから、あなたたちは間違いない仕事をしていると証明されて、守られるんだ」と言ったんです。社員やお客さんを守るためにやる。それは正解だと僕は今でも思っています。今は監視カメラのない世界ってないですから。

 かなり投資しましたよ。どうしたら流出しない仕組みができるんだということで、プロを呼んで、脆弱性をチェックしてもらう。情報セキュリティーの審査を、事件から14年目ですけど、今でも続いています。