全1216文字

 仏教が誕生した土地でありながら、多くの人がヒンズー教を信じるインド。佐々井秀嶺氏はここで50年以上にわたり仏教の復興に取り組んできた。その運動は、ヒンズー教のカースト制で最下層に位置し、かつて「不可触民」と呼ばれた人々にとって特別な意味を持つ。
 中国の台頭などで国際的な存在感が低下しているとも言われる日本。だが、世界で活躍し続けている人物や果敢に世界に打って出る人物もいる。日経ビジネスは2月4日号の特集「世界を動かす日本人50」で、世界を舞台に新たな地平を切り開いている日本人にフォーカスした。特集記事では佐々井氏ら50人を紹介している。

 「バンデージ!(ヒンディー語で先生の意味)」。佐々井氏が活動の拠点としているインドの地方都市、ナーグプル。この街を歩けば、多くの人々が親しみを込めて佐々井氏をこう呼び止め、その前に跪いて手を合わせる。

 佐々井氏の仏教復興は、インドの人びと、特にヒンズー教の身分制度であるカースト制度で「不可触民」とされた人びとにとって特別な意味を持つ。

 憲法でカーストによる差別は禁止されているが、今も社会に根強く残っているのが実情だ。そこで佐々井氏は彼らに仏教への改宗を促してきた。「平等を説く仏教ならば、人間の尊厳を取り戻せる」(佐々井氏)からだ。

 山梨県の寺で修行に入り、タイを経てインドに渡った。布教活動を始めた当初は周囲に怪しまれ、時に石を投げつけられた。ヒンズー教徒の恨みを買い、毒殺されかかったこともある。それでも毎日公園で寝起きし、街を練り歩き、太鼓を叩き、経を唱え、そして貧しい人々の話を聞いて回った。

 徐々に人々は佐々井氏を信頼し、その元に集まるようになる。そして不可触民とされた人々を中心に仏教への改宗に踏み切る動きが加速していった。改宗に立ち会った人数は「正確には数えていないが、30万人は下らない」という。