ピュア過ぎるのが日本人の最大の問題

冒頭の「窃盗未遂事件」の後、外尾氏はこんな話を披露してくれた。
伊フィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂の聖書台を作るコンペに参加した時のこと。出品直前にコンクールに必要な資材を発注先の業者がすべてすり替えた。日本人に勝たせたくない何者かが妨害したためだ。
外尾氏は深夜にその業者に押しかけ、発注した材料を取り返してきて徹夜で作品を仕上げた。コンペの結果は、外尾氏の優勝。妨害した関係者はさぞかし驚いたことだろう。正論だけでは通じない。世界を動かすためには、状況を見極めて行動するしたたかさが不可欠だと外尾氏は説く。
欧州で40年間、彫刻の第一線で活躍してきた経験から、「ピュア過ぎるのが日本人の最大の問題だ」と指摘する。「何千年もの間、争いを繰り返してきた欧州では、争いを収める術やその中で価値を生み出す知恵がある」とも。外尾氏は一筋縄で行かない価値観や難題の中で作品を作り続けてきた自負がある。
完成を急ぐことに対する批判も
137年間、建設が続けられ、「未完」が代名詞だったサグラダ・ファミリアは、観光客の急増で資金が潤沢になり、2026年に「完成」することが発表された。完成まで300年かかるとも言われていたため、この発表は世界中を驚かせた。関心がある読者は、完成までの工程がネット上で公開されているのでご覧いただきたい。急ピッチで建設が進み、より巨大に、豪華になったイメージ画像を確認できる。
しかし、「完成」に対しては様々な見解が交錯している。完成を急ぐことに対する批判もある。外尾氏は設計者であるガウディの精神に思いを馳せているようだ。「26年に構造という骨格が完成し、その後に彫刻などで肉や表情をつけていく。建築は続く」と話す。
サグラダ・ファミリアの「完成」という歴史的な出来事に対して外尾氏がどのように本懐を遂げるのか。海外で揉まれ続けてきた経験を生かすのは、まさにこれからなのかもしれない。
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