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 映像をご覧いただきたい。冒頭にサグラダ・ファミリアの芸術工房監督である外尾悦郎氏が足元の方を何回かチラッと見ている。実はこの時、筆者のスーツケースが盗まれそうになっていた。

 場所はスペイン・バルセロナにあるサグラダ・ファミリア近くのオープンカフェ。筆者とカメラマンの足元に置いたスーツケースが、少しずつ後ろに引っ張られていたのだ。通路側ではなく、カフェの内側に置いていたが、筆者とカメラマンの背後に座っていた女性3人組の仕業だった。

 見かねた外尾氏がインタビューを中断し、スペイン語で一喝。女性たちは自らの悪行を認める訳がなく、甲高い声で猛烈な反論を展開し、カフェは一時騒然となった。女性たちは店員を味方につけようと試みたが、カフェの店員らは全く聞き入れない。外尾氏の迫力に押されたのか、スリ集団はそそくさと去っていった。

 外尾氏は、サグラダ・ファミリアの顔だ。カフェの店員もみな、外尾氏を知っている。いや、ただ知っているだけではなく、尊敬もしている。外尾氏は地元カタルーニャに根を張り、40年に渡ってサグラダ・ファミリアで石を彫り続けてきたからだ。日経ビジネスは2月4日号特集「世界を動かす日本人50」で世界で活躍する50人を紹介した。その50人の1人として外尾氏にインタビューした。

 サグラダ・ファミリアはスペインの宝だ。遠く極東の地から来た異邦人に門戸を開いたものの、外尾氏は長い間、一回の仕事ごとの請負契約を続けてきた。「常に契約が切られるかもしれないという緊張感の中で石を彫り続けてきた」と振り返る。

 そんな緊張感の中で、歴史に残る建造物を手がけてきた。生誕の門にある15体の天使像は外尾氏の代表作であり、「天使が西洋人という決まりはない」と考え、東洋人の顔をした天使像も盛り込んだ。外尾氏の彫刻を含む生誕の門は2005年、世界文化遺産に登録され、最も観光客が詰めかける場所となっている。

 その精緻かつ創造性にあふれた仕事ぶりが評価され、ついに2013 年に芸術工房監督に就任した。インタビューの最中には観光客らしき人から声をかけられ、写真撮影に応じていた。