坂本さんは既にご自身の世界を確立しています。ただ、音楽の世界だけでなく、様々な領域で誰も知らないこと、誰もやったことのないような「余白」は減っているように感じます。坂本さんが、これからまさに自分の世界を作り上げようという若者だとしたら、どのように余白を見つけますか?

坂本:それは分からない。ただ、若者がそう感じるのはいつの時代だってそうなんですよ、きっと。ローマ時代だって若者はそう感じていたと思います。僕も、誰もやったことのないことをやろう、というふうに思っていましたが、難しいとも感じていたし。

 ただ、インプットが多すぎて、自分が何をやっていいのか分からないという面が今の時代にはあるように思います。僕は自分で音楽を作る時は極力インプットを減らすようにしています。インプットしているとアウトプットできなくなるので。

ある程度のインプットがないとアイデアが湧かないという声もありますよね。

坂本:僕は逆かな。(2017年にリリースした)8年ぶりのソロアルバム『async』を作っていた時は、フェイスブックもツイッターもなにも見ず、必要最小限の連絡はeメールだけにしました。そうやって頭の中から情報を追いだし、自分の頭の中で考える、自分が感じる時間を増やす努力をしました。これほどまでに情報が多いと、意識的にインプットを押さえないと自分で感じることはできないと思います。

 よく言われることだけど、今日はどこのレストランに行こうかな、と思ったときに、みんな「食べログ」や「Yelp」を見るでしょう。自分の胃袋に聞いていないじゃん、という話で、既にAI(人工知能)に支配されているんですよ。それがいいという人もいるので文句を言うつもりはありませんが、僕は避けたい。

そういうディストピア的な世界はYMO時代に既に語られていました。

坂本:YMOの3人で、聴衆の脳にダイレクトにケーブルをつないで、直接、音楽を送信できるよね、という話はしていました。3人ともSFが好きだったので。

 僕は『ブレードランナー』の下敷きになっているSF作家のフィリップ・K・ディックが好きで、テクノロジーの進化の先にある危ない未来や暗い未来というのは当時からイメージしていました。でも、今から振り返るとずいぶん楽観的だった。実際に実現しつつある現在を見ると、もっと深刻な気がしています。

 20世紀は科学や技術に対して希望があったんだと思います。ところが、21世紀が近づくにつれて、ちょっと怖いな、なんか嫌だなと思う部分が多くなってきた。同時に、人間疎外と言いますか、個人の孤独や家族の分裂などが広がるようになって、スピリチュアルなものを求める声も大きくなっている。技術の進歩というのは止められないので、テクノロジーと宗教がどんどん乖離していくと思います。怖いことに、テクノロジーを使った宗教的活動も多くなっていくでしょうね。

創作におけるモチベーションは若い頃と今で変化はありますか?

坂本:もちろんあります。若い時は本当に自転車操業のようなところがあって、とにかく走り続けていました。走ることが自己目的化したような仕事のやり方だったと思います。ある時、大きな賞をいただいて、自分にご褒美と言って1カ月くらい休みを取ったことがあるんです。しかし3日でイライラしてきて、「仕事を入れろ」とスタッフを怒鳴ったこともありました。何のためということではなく、走っていること自体が面白かったんだと思います。

今後は何のために音楽を作ろうと考えていますか?

坂本:自分が作る音楽だから人工には違いないんだけど、津波ピアノの音を受け入れるように、なるべく自然と対立しない音楽を作りたいと思っています。それが今の一番のモチベーションです。

新しい分野を切り開くというところもありますね。

坂本:そんな気負いはありませんよ。他人に真似しろという気もない。自分がそう思ってしまったからしょうがないという感じです。僕がそうだったように、多くの音楽家は自分の世界を構築したり、技術を見せたり、そういう方向になりがちです。でも、自然となるべく調和させるということは人工の部分を減らすわけだから、単純に言えば自我を減らすことですね。僕はもうなるべく自我のところは減らしたいと思っているから。