全2133文字

 今年もプロ野球パ・リーグで優勝候補に挙がる常勝軍団ホークス。経営破綻したダイエーからソフトバンクに所有権が移ることになってから早いもので15年になります。当時、球団取得に名乗りを上げた孫正義さんは、野球が好きで鉄下駄を履いてトレーニングしたとラブコールを送りました。これには驚きました。ソフトバンクからいただいた孫さんの半生をつづった書籍には、サッカー少年で鉄下駄を履いてトレーニングした、と書いてあったからです。

 ソフトバンクはホラかマコトかが見極めにくい稀有な会社です。4月25日のプレスリリースも大変ユニークな案件でした。地上約20キロメートルの成層圏に無人航空機(名前はホーク30)を浮かべ、5Gなど通信の基地局にするというもの。4年後に航空機の量産を目指すということですが、本当に実現するのかどうか。

 これまでも同社は気球や飛行船を基地局に使う低コストで災害に強い空中ネットワークの構想を何度かぶち上げていますが、目立った実用的な成果は聞こえてきません。

 しかし、ソフトバンクの空への想いはマコトだと考えた方がよいでしょう。現状では足元で最も注力しているのは自動車。英アームの買収、ウーバーなどライドシェアへの出資、トヨタ自動車との提携はすべて将来の自動車関連サービスのプラットフォームを握るために手を打ってきたものです。その先にあるのが空。ドローンや空飛ぶ車もスコープに入れた立体的な情報管理の中では自動車もその一部にすぎません。ソフトバンクは必ずその情報管理のプラットフォームを狙ってくるはずです。そして、さらにその先の宇宙も視野に入れているでしょう。

 日経ビジネスが平成の名経営者を読者に選んでもらったところ、得票数でトップになったのは孫さんでした(4月29日号に掲載)。あの京セラの稲盛和夫さんやファーストリテイリングの柳井正さんをおさえての1位。電子部品事業を興し、NTTに対抗してゼロから新電電を立ち上げた稲盛さん。独自の製造・販売モデルを確立しアパレルを変えた柳井さん。これに対して、特に新たな価値を生み出したわけではない孫さんがなぜ平成一の名経営者に選ばれるのか。もちろん、世界で最も注目される日本企業をつくったという実績はあるでしょう。投票した読者の具体的な理由も様々でしょうが、リスクを顧みずホラのような夢に挑戦し続ける姿への本能的な憧れが通底しているのではないでしょうか。もはや世界のリスクにもなりつつある膨大な借金は賞賛しがたいものですが、その危うさを含めて憧れを誘っているようにも見えます。「できればやってみたい。でも、自分にはとてもできない」。地球を守るという大きなフィクションのために自分より強そうな怪獣と危なっかしく戦うウルトラマンを見るような感覚があるのかもしれません。

 振り返ってみれば、岩崎弥太郎さんも松下幸之助さんも本田宗一郎さんもリスクを取りながら、大きな目標にまい進した人たちでした。尊敬される経営者は安全地帯で業績ばかりを気にしている経営者とは違います。目先の利益ではなく、何事かを成すために経営する人たちです。

 30年近く企業取材をしてきて最近感じるのは、こうした大志を持った経営者が減っているということです。社長になるのが目的のような「サラリーマン経営者」が増えています。なぜなのか。