2022年の日本経済はいわば「期待外れ」だった。新型コロナ禍からの経済活動正常化は遅れ、急激な円安で貿易収支は悪化し、輸入コストが上昇した。家計や企業活動は動揺している。2023年の展望を聞いた。

(聞き手は三田敬大)

小林 俊介(こばやし・しゅんすけ)氏
小林 俊介(こばやし・しゅんすけ)氏
みずほ証券エクイティ調査部チーフエコノミスト。専門は日本経済・世界経済・金融市場分析。2007年、東京大学経済学部を卒業し、大和総研に入社。13年に米コロンビア大学および英ロンドンスクールオブエコノミクスで修士号を取得。日本経済・世界経済担当シニアエコノミストを経て、20年8月より現職。(写真=北山 宏一)

2022年は円安が大きく進みました。メリット、デメリットをどう整理していますか。

小林俊介氏(以下、小林):シンプルに言えば、全体ではプラスマイナスほぼゼロです。まず、GDP(国内総生産)に対しては若干のマイナス。原発の減少、少子化、インバウンドなし、この構造的な3点セットで貿易収支赤字に転落したからです。00年代や1990年代であれば貿易収支黒字でしたから間違いなく全体ではプラスでしたが。

 上場企業の利益は膨らんでいますが、GDPとの関係は薄くなっています。彼らの稼ぎの多くを海外子会社が生み出し、この利益はGNP(国民総生産)に入ります。2022年度は、貿易を通じた円安のマイナスと相殺してゼロになりそうです。

 つまり、22年度で言えば、円安の影響はGDPはマイナスでGNPに対してはプラマイゼロのイメージです。「円安で日本は終わりだ」とか「こんなにもうかっている」とか言う声も聞こえてきますが、トータルでは大したことはありません。

 問題は、この2つの意見があるように、跛行(はこう)性(編集部注:ちぐはぐな状態)があることです。商社は輸出でももうかるし現地投資でももうかります。自動車や電機も潤います。メリットのほとんどは国内の上場企業や大企業が取り、株価にもプラスです。しかし多くの人は円安のデメリットを受けます。

円安が長期化すると影響は大きそうです。

小林:当然、短期的で乱暴な円安は悪い。明日1ドル=200円になると、恩恵がない企業は倒産もあり得ます。また、円安がもたらす格差拡大そのものが経済活動を悪化させる可能性があります。政治的に最適戦略が取りにくくなるし、低所得者層の方が消費性向が高いからです。

 円安はどちらかといえば消費性向の低い高所得者層に富が集中します。高所得でない人たちは、恐らく消費を控えるでしょう。企業が稼ぎを賃金や設備投資として還元しなければ死蔵になります。全体で見れば経済を悪化させる可能性が高い。

円安メリットを生かせていないですね。

小林:(入国規制などがあり)インバウンドがブーストできていません。企業の輸出価格も上がっていない。米国はドル建てで9%のインフレがあったのに、なぜ値上げしないのでしょうか。政府による分配も大事ですが、それ以前に、円安でしかも世界はインフレなのですから、企業が輸出できちんと値上げしなければ、円安のデメリットはエコノミストが机上で計算したものよりも大きなものになってしまいます。

 もっとも、足元では資源価格が落ち着きつつあり、米金利の上昇で日本から米国債券への投資コストが上昇しています。個人的には23年にはやや円高に反転するとみています。

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