サッポロホールディングス傘下の事業会社、サッポロビールの主力ブランド「黒ラベル」が好調だ。外出自粛の影響で飲食店を中心とした業務用の販売数量は落ち込んだが、巣ごもり消費を追い風に家庭用が伸長した。家庭で飲まれる缶製品の1~11月の販売数量は前年同期比107%。12月17日の時点で2019年の出荷実績を上回り、6年連続で前年超えとなった。10年がかりの取り組みが、コロナ下で結実している。

 社内では「死んだブランド」だと思われていた黒ラベル。復活の背景を生産現場出身の髙島英也サッポロビール社長に聞いた。

<span class="fontBold">[たかしま・ひでや]</span><br> 1959年生まれ。82年東北大学農学部卒業、サッポロビール入社。製造畑を歩み、07年仙台工場長。09年経営戦略本部長、13年北海道本部長兼北海道本社代表などを経て、17年より現職。福島県出身(写真:的野 弘路)
[たかしま・ひでや]
1959年生まれ。82年東北大学農学部卒業、サッポロビール入社。製造畑を歩み、07年仙台工場長。09年経営戦略本部長、13年北海道本部長兼北海道本社代表などを経て、17年より現職。福島県出身(写真:的野 弘路)

髙島社長が入社した1980年代は、サッポロに勢いのある時期でした。

髙島英也・サッポロビール社長:黒ラベルは非常に順調でした。当時は工場で働いていましたが、プリンターから日々の出荷状況が出力されるのを眺めて、同僚たちと「すごいな」と話していたのを覚えています。

消費者のことを分かっていない会社

87年にアサヒビールが「スーパードライ」を売り出して、大ヒット商品になりました。他のビール各社もドライビールに参入し、「ドライ戦争」と呼ばれました。

髙島氏:うちも黒ラベルをリニューアルしたほうがいいということで、「サッポロドラフト」を出しました。ちょっとお勉強しすぎたんですね。ブランドはいいうちにリニューアルしたほうがいい、なんて言ってしまって。でも発売したらすごく批判を受けて、「どうして黒ラベルを捨てたんだ」という声が市場から上がりました。

 私はそのとき仙台工場から大阪工場に転勤するところだったのですが、当時の上司だった村上(隆男、サッポロホールディングス元社長)に「大阪へ行ったら黒ラベルの仕様で少し仕込みをしておいたほうがいい。黒ラベルに変わるかもしれないから」と言われました。それでひそかに黒ラベルの液を仕込んでいたのです。

 結局、サッポロドラフトは終売。半年ほどで黒ラベルを復活させましたが、そのときの痛手は大きかった。今でも得意先に言われますね。「おたくは本当にお客さまのことを分かっていない会社だったね」と。

流行に飛びついて、顧客が何を求めているか見ていなかったということですか。

髙島氏:サッポロビールの強みは本来、ものづくりにあるはずなんです。それをどこかで忘れてしまっていた。世の中の大きな変化にのみ込まれたんだと思います。

「サッポロラガービール(通称、赤星)」は現存する国内最古のビールで、「黒ラベル」や「エビス」といったロングセラーブランドも複数持っています。

髙島氏:うちは国内の主力5工場すべてにサイロが最低でも16本あるんです。そこまでの本数を持つ会社や工場は少ないと思います。なぜこんなに持っているかというと、麦芽の品種ごとにサイロを分けているからです。

 現在では、多くの会社は麦芽をブレンドした状態で買っていると思います。ブレンドして買うならサイロは少なくて済む。うちと同じ生産規模だったら3本くらいでいいでしょう。でもサッポロは新しい麦芽の品種が出たら必ず工場に持ってきて、何パーセントまで使えるかというのを慎重に調べるんです。

 ギネスと盛んに技術交流をしていた頃、うちの工場を訪れたギネスの技術者がサイロを見て、「非常に非効率だ。経済合理性がない」と言いました。私たちからしたら、全然そんなことはない。「おいしいビールをつくろうと思ったら必要だ」と言い返しました。

実直にものづくりをしていても、消費者に手に取ってもらわない限り価値は伝わらないのでは。

髙島氏:そうですね。だから営業担当者にはストーリーを語ってもらいたい。社長に就任してから4年がたとうとしていますが、少しずつ変わってきた実感はありますね。でもまだまだかな。

 営業活動もとても大事なものづくりのプロセスなんです。例えば、赤星。昔から瓶ビールを居酒屋中心に出しているのですが、今若者を中心に大変人気です。

 営業は喜んでいてやる気満々なんですが、ちょっと気を引き締めないといけない。瓶はなかなか冷えにくいんです。だから、お店の冷蔵庫の能力がどれくらいあるかを把握しておくことが重要です。それに、せっかくいい商品なのにグラスが汚れていたらガッカリですよね。だから営業担当者にはそういうところをチェックしようと言っています。

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