野内氏:それなりのサイズの事業を生み出し続けていくには、リソースも必要になりますね。

松本氏:そうです。複数ある事業のすべてを自分たちで取り囲み続けるのは難しい。そこで22年8月に大きく変えたのがハコベルです。物流のハコベルを切り出し、外部の株主を入れるという形で、株式の50.1%をセイノーホールディングスさんに持っていただきました。JV(ジョイントベンチャー)化はラクスルが今までやってこなかった新たなチャレンジでもあります。

 セイノーホールディングスさんは人や資金という点だけでなく、長らく物流業界で培ってこられたネットワークを持っておられる。事業を成長させるという本来の目的を達成するために、JV化などパートナーシップを組んで事業を広げていくスタイルも確立できました。

 変革し続けるのは経営者としての宿命に近いものがありますが、野内さんは経営していて、どういったシーンで「変わっていない」と感じるでしょうか。

(写真:的野弘路)
(写真:的野弘路)

野内氏:いろいろなシーンが思い浮かびますが、やはり「今に満足している状態」のときに、危機を感じます。今の状態が最高と思ってしまうと、人も組織も伸びません。

 成長過程において「最高だ」と思いつつ、これからの市場拡大を見越してさらに上を見ている状態ならいいのです。イメージでいうと、安定ゾーンに入ったときに、「変わらなければ」という危機意識が芽生えます。私自身も現状に満足してしまうときがあります。ただ、そこは衰退を意味するかな、と。

 黒字化したとか、数億円利益が出たというところで満足してはいけません。「上場ゴール」という言葉もありますが、上場して満足して伸び悩む企業もあります。そういう意味では、ラクスルは上場後も攻め続けていますよね。

松本氏:ありがとうございます。常に変わり続けるというのは、新しく事業を生み出すだけではないと考えます。同じ事業でも、昨年とは異なる価値をお客さまにどう提供するか。1つの事業の中で、同じ価値をお客さまに提供し続けることを否定するわけではありません。これは最も大事なことで、7割の力はこっちに割くべきだと思います。ただ、残りの3割の力はやはり、新しいことを生み出すチャレンジをしていかないといけない。

 世の中にない画期的なサービスを生み出したとしても、時間をかけてその事業の成長はどんどん緩やかになっていきます。新しい課題を見つけてそれを解消するテクノロジーや商品をつくり続けていく。それができれば、1つの事業の中でも変化し続けることができると考えています。