労働者はどういう分け方をしたのですか。

川口:雇用調整を考えるときに、2つのタイプの労働者を考えています。1つが正社員、正職員と呼ばれる人たちで、あとのグループがその他の人々。これを非正規社員と呼んでいるんですけれども、この中にはいろいろなタイプの人がいて、直接雇用されているパートタイムの人と、間接雇用の派遣の方と、今は両方入っている。

 分析した結果、雇用調整については、輸出をたくさんしている企業は、円高になると非正規の人たちの雇用を減らすことが分かった。その一方、正規の人たちの雇用には手をつけない。

 非正規の人がいるからこそ正規の人の雇用が守られているかどうかは、直接は分からない。ただ、ネガティブなショックを企業が経験したときに、いわゆる非正規社員で雇用調整し、正規社員の雇用には手をつけないという事実が見つかったわけです。

印象論としては長年語られていますけれども、本当に因果関係がそうなのかは分からなかったということですね。さらには、女性の方が非正規社員が多いし、調整弁に使われるのが非正規ですから、結果的に女性の賃金が上がらない。二重構造の中で、女性の方が不利な層に入っているということもいえる。

川口:何でそういうことが起こるかを少し分析していて、正社員の中でどういう調整があるのかを見ると、雇用は調整されていないもののボーナスが下がっていることが分かりました。実質的な意味での賃金調整で、雇用を守る代わりに賃金をカットする。

景気が悪くなると労働時間が長くなる

 また、労働時間に関しても別の因果関係が確認できました。労働時間は、景気が悪くなると普通は減るのですが、日本の正社員の場合は逆なんです。これは既存の研究でも見つかっていたことなんですけれど、我々の研究でもそれを改めて発見しました。

 説明としては、非正規の従業員で雇用調整しているので、残された仕事が多くなって、その分を正社員がこなしている。だから景気が悪くなるとむしろ労働時間が長くなるパターンが出てきた。

 しかし正社員もボーナスが減って手取りが減り、労働時間が長くなっているので、基本的に時給にすると下がっている状態です。でも、それでも耐えている。何でそんなことになっているのかというと、正社員には企業特殊的な熟練が、おそらくまだあるからですね。そのため、転職してしまうと今の職場で得られているような待遇は得られない。

その企業特有の仕事に熟練している社員だからこそ、価値もあると。

川口:企業も、調子が悪いからといって解雇すると、次にまた雇うのが大変なので残しておきたい。けれども、今までどおりの支払いをする体力はないので、賃金をカットしてとどまってもらう。

 労働者の側も、景気が悪いときにほかのところに転職したいわけではなく、賃金が下がっても耐える。だから、企業にとっても労働者にとっても、少なくとも正社員に関して言うと、両方にとって都合のいい立て付けなのだというのが1つの考え方です。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り4227文字 / 全文6818文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

特集、人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

ウェビナー【日経ビジネスLIVE】にも参加し放題

日経ビジネス最新号、10年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「インタビュー」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。