有給休暇(有休)を取得できなかった無念を「供養」する。そんなイベントが12月10日、大阪市内で開かれた。広告企画制作会社「人間」(大阪市)が有休取得率の向上を図ろうと主催した。


「わが子の誕生会が7カ月遅れた」「亡くなる前に祖母と会いたかった」。会場にはウェブサイトを通じて寄せられた、有休を取得できなかった理由や取得できなかったことへの思いなどが書かれた灯籠(とうろう)約300基が並んだ。灯籠に囲まれる中、読経し、未消化の有休を供養したのは東京都の僧侶、佐山拓郎氏(44歳)。自身もブラック企業で働いていた経験があるという佐山氏に話を聞いた。
今回、消化されなかった有給休暇の供養をするイベントに携わった経緯を教えてください。
佐山拓郎氏(以下、佐山氏):お坊さんの知人から紹介を受けました。実家がお寺なので仏教系の大学を卒業した後、10年間は書籍の制作会社で会社員をしていました。そこでは残業や休日出勤が結構ありました。イベントを紹介されたのは、僧侶の中では私が最も有休を死なせてきたと思われていたからかもしれません。お話をいただき、これは私にしかできないかもしれないと思い、引き受けました。

勤めていたのは、いわゆるブラック企業だった。
佐山氏:休日出勤で土曜日や祝日が潰れることが常態化していました。残業時間は月100時間を超えることもありました。結婚もしましたが、多忙な時期と重なって結婚休暇も取れませんでした。
退職して、僧侶になられたのはなぜですか。
佐山氏:限界を感じて、逃げてきたような感じです。学生時代は読書や音楽、ゲームやスポーツと趣味がたくさんありましたが、できなくなった。時間がなくてできなくなったというのもありますが、休みがあっても気力がなくなってしまった。お酒を飲んで、寝るだけという感じでした。
今回の法要はいかがでしたか。
佐山氏:灯籠には「親の死に目に会えなかった」という深刻な内容もありましたが、「優しかった彼女に振られた」「妻と子供だけでハワイに行かせてしまった」という内容の灯籠も心に響くものがありました。「優しかった」という言葉に込められた彼女への思いや、被害者なのに自分自身を責め続け、家族からも責められている姿が浮かんだからです。
普段の法要ではどんなにつらくても泣かないようにしていますが、今回の法要では私自身の経験も重なって泣きそうになりました。
イベントの意義をどう考えていますか。
佐山氏:有休を取りづらい雰囲気をなくしたいという主催者の思いに共感する部分ももちろんありますが、私は悔しい思いを文字にして供養することで、心が少しは晴れるのではないかと考えていました。
加えて、仏教には六道を輪廻(りんね)するという考えがありますが、六道の1つの修羅道にいる人たちは戦い続けるという宿命を背負っています。ですので、使われなかった有休が、その人たちにも回ればいいなと思ってお経を唱えていました。
仏教を信仰する目的には、日々を心安らかに過ごすこともあると私は考えています。ですから、仕事においても、周囲の期待や忖度(そんたく)を心のかせにしないことが大事なのだと思います。少しずつ休みながら、パフォーマンスを上げていくことで会社も自分自身もうまくいくようにしてほしいと願っています。
ちなみに、現在は有給休暇はあるのですか。
佐山氏:一応あり、取れています。寺のほかの者ももちろん取れるようにしています。
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