4技能を問う民間試験の導入は進めるべきだ

柳沢氏:昔は、大学院入学試験の外国語の問題は、自分たちで作っていました。だけど、それはあまりにも大変なんです。そうすると、自分の研究分野に関係した英語の論文を読ませて、それについて評論するような問題を作るようになります。でも、それはあまりにもバカバカしいので、それで私が新領域創成科学研究科で企画室長をやっていたときに、TOEFLを大学で初めて導入しました。

 私は1997年から2012年まで東大にいました。英語は我々の専門ではないし、英語の試験を作るのは適切ではないからTOEFLにしようと提案したら、最初は学内でものすごく反対されました。東大の入学試験は東大の教員が作らなくてはいけないという、内部文書があるというわけです。しかし、安田講堂の隅から隅まで捜しても、何も出てきません。

 そこで、何も出てこないから実施することが決まりました。

 語学は、学問をやる上で必要条件です。持続的に勉強しないと習得できないので、学問をする資質を判断するのに適しています。だから、英語の点数でまずはふるいにかけて、その後、十分条件を評価する専門分野の試験をやればいいのです。

 そうした中で、私が英語の4技能は非常に重要だからと民間試験の導入に賛成しているのは、今の時代、学問のためだけに英語が使えればいいわけではないからです。

 かつて、日本人にとっての外国語は中国語でした。日本には文字がなかったから、中国の漢字を輸入したわけです。それが万葉仮名です。そして、その漢字の文字を使えるのが知識階級でした。文字を読めると新しい知識を学ぶことができます。支配層にとって、外国語は非常に有効な道具なわけです。

 そして日本は島国だから、話せなくても読み書きができれば十分でした。その頃から日本人にとっての外国語は、新しい知識を乗せてきてくれる“車両”だったわけです。そのため、学問をやる大学の人たちにとっては、外国語は読めて書ければよかった。今でも大学の先生には、そう言う人がたくさんいます。英語が読み書きできれば、日本国内では知識階級として生き残れるという感覚が今も根強い。

 しかし、外国語のもう1つ重要な機能は、聞くことと話すことです。

 そこで忘れてはならないのは、大学に進学しない子どもたちのことです。大学進学率は高くなったとはいえ55%です。外国語の4技能を大学入試で問うことは、大学に進学しない45%の子どもたちのためにも、中学、高校の語学教育において非常に重要な方向性を示しているのです。

 これまで日本にはインバウンド(訪日外国人)が多くなかったから、外国語を聞けて話せることは、多くの人にとってそれほど重要ではありませんでした。ところが、もうそのような時代ではありません。浅草でも河口湖でも、商売をやっている人はどんどん英語を話せるようになっています。それが生きる上で必要だから。それは、大学に進学する55%の人だけではなくて、残りの45%の人たちにとっても、英語が生きる上で重要になっていることを意味しています。

 中学、高校の教育に保護者から期待されていることは基本的に、就職したい卒業生にも進学したい卒業生にも、しっかりと社会に対応できる能力を付けてあげることでしょう。話せて聞ける能力の重要性は、日本国全体として若者を育てるときに必要なことです。

小林氏:インバウンド関連ビジネスに従事されている方だけではなく、学問の世界でもビジネスの世界でも、読んで書けるだけでは通用しないようになってきていると思います。

柳沢氏:そうです。そのためにも、大学入試で4技能を問う必要があるんです。大学入試で問われる能力が変わらないと、高校、中学でも聞いて話す能力の教育をしっかりやりません。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り883文字 / 全文5076文字

【初割】月額プランが3月末まで無料

人気コラムも、特集もすべての記事が読み放題

ウェビナー【日経ビジネスLIVE】にも参加し放題

日経ビジネス最新号、11年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「インタビュー」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。