「データ復旧業界の規模を“半減”させたい」という、ちょっとぶっそうなタイトルのインタビュー記事を書かせていただいたのは2017年5月2日。自分自身が「ぼったくり」系のハードディスク復旧業者に引っかかった体験記(「HDDの復旧、どうしてこんなに高いの?」「HDD修理、ここにダマされるな!」)がきっかけだった。悪質業者に対してハードディスク・ストレージの業界としても苦慮し、対応を進めている、という話をうかがって、日経ビジネスオンラインに掲載した。

 最初の体験記を書いてから3年がたち、少しは環境が良くなったかと思っていたら、なんと、悪質業者の手口はどんどん洗練され、被害も後を絶たないのだという。日本データ復旧協会(DRAJ)の本田 正会長(A1データ社長)に聞いた。

忘れもしない2016年、家族写真で満タンのハードディスク(HDD)が故障して、ネットで検索して復旧業者に持ち込んだら、狭い部屋に入れられて「早くしないとどんどんデータ復旧が難しくなる」と圧迫面談されるわ、どえらい価格が提示されるわ、値切ったらいきなり半値になるわ、どういう世界なんだと驚いたんですが、まだやっているんですか。

本田 正会長(以下本田):いや、それどころかますますエスカレートしているんですよ。国民生活センターにもたくさん苦情が寄せられるという状況になっちゃったんです。

えっ。

日本データ復旧協会 本田 正会長(A1データ社長)
日本データ復旧協会 本田 正会長(A1データ社長)

本田:例えば、昔はデータを復旧できない場合は料金を取ることはまれだったんですよ。今は、「データが直らなくても料金はいただきます」、という契約をさせるところが出てきています。

そんなアホな。なぜそんな契約書にサインするのですか。

本田:説明する書類には書いていなくて、契約書の方に書いてあるんです。後でこれに気づいて「データが戻らないのになぜ料金を取るんだ」となっても後の祭りです。

それにしたって……。

「9割復旧」「今すぐ着手しないと」にだまされるな

本田:サインしてしまう要因は「9割以上は復旧に成功できる」というアピールです。そして、ご自身で体験された通り、彼らは契約をいろいろな手口で急がせる。早くしないと成功の確率が下がります、と、根も葉もないことを言って。そこで「まあ9割以上成功するなら」と、契約書をしっかり読み込まずにサインしてしまうんです。

復旧できないのにどういう費目で請求してくるんですか。

本田:最近来る苦情ですと、ほら(資料を示す)「作業費や解析費で30万円、成功報酬3万円」。要するに復旧できなくても30万円は取っちゃうわけです。

そしてそこから、いかにも特別サービスのような形でどんどん値引きするんですよね。

本田:ええ。簡単な作業で修復できる場合でも高い見積もりを出すんですよ。そして「キャンペーン期間」とか、いかにも同情を装って値引きしてくる。相談が来たケースでは、最初に150万円だった見積もりが20万円になった、という例もあったようです。それにビビった方は依頼をとりやめてくれるんですけど、やっぱり「データが救える」という希望にすがりついていると、「それなら」と、サインしてしまう。

分かります。しかも「現在、検査でHDDを開封していますので、これを元に戻すだけでも、復旧できないリスクが高まります」とか言ってくるんですよね。よく考えたらむちゃな理屈で、そんな無責任なという話なんですけれど、専門家が言うならそうなのか、と。かくいう自分も、値切り倒した揚げ句ではありますが、ついにサインしてしまいました。

本田:ご家族の思い出や、大事な仕事のデータを人質に取られているようなお気持ちになるでしょうから、無理もありません。しかし、そういうお客さんをどうにかして救いたいというのもあって、いろいろなアピールを始めています。

具体的にはどのような。

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