連戦の回避と投球数制限を軸にガイドラインを提示

川村准教授:今回のガイドラインが導入されれば、20年の第92回選抜高等学校野球大会から適用されることになります。春・夏・秋の地方大会にも適用されます。また、軟式の全国・地方大会も対象になります。

 注目されている、投球数制限というのは、実のところ明確な科学的根拠があるわけではありません。実際に選手を使って、ここまでなら大丈夫だとか、それ以上投げさせて、ここからはだめだ、などという検証をするわけにはいきません。個人差もありますし、投げ方によってもけがをしない投球数というのは変わってくる。ただ、過去の経験則や実態から見て、この辺を超えると危ないという目安はありました。

 投球数だけでなく投手の故障には、連投の影響も大きいです。そこで、3連戦を回避する日程を設定することを盛り込みました。この夏の全国高等学校野球選手権大会の地方大会で、岩手県の大船渡高校の佐々木朗希(ろうき)投手が決勝で登板を回避しました。大船渡高校の国保陽平監督は私の教え子なのですが、彼は球数より連投の影響を気にしたのではないかと思っています。

 投球数制限や3連戦回避などは罰則なしのガイドラインとして3年間運用されます。また、どんな運用をしたらよいのか、細かな部分はこれから考えることになります。導入後もガイドラインや運用の見直しも出てくると思います。3年を経たあとに、正式なルールとして確立する予定です。

 3年間とあるのは、その期間でガイドラインにのっとった選手の育成やチーム作り、戦術などを考えてもらおうという意味もあります。いきなり来春から投手を増やしてくださいと言っても難しいところがあります。高校であれば、3年間で選手は入れ替わります。来年高校に入ってくる選手が卒業したあとに新しい高校野球のルールが確立するというイメージです。

 今回の答申では附属文書の中で、金属バットの性能の見直しについても触れています。金属バットは反発力が高く、鋭い打球が飛ぶ傾向にあります。これに対処しようとすると、投手への負荷が高まります。今年の夏の全国高等学校野球選手権大会では、強烈なライナーを顔面に受けた投手が1回の表で降板するということも起きています。これもバットの反発力が高まっていることと無関係ではないでしょう。

 指導者ではやはり投球数制限を心配される方が多かったです。投球数制限があるとピッチャーが少ないところが不利になる。ピッチャーを増やそうにも、そんなに育てられないという感覚です。「制限を設けたら野球が野球でなくなってしまう」とも言われました。ただ、そのとき「野球は変わらざるを得ない」とお答えするしかありませんでした。

 日本ではエースピッチャーがマウンドを守るという美学があります。投手のステータスが非常に高い。しかし、例えばキューバなどではピッチャーが一番人気がない。そんな感覚の国もあるのです。感覚の違いは大きいし、それを変えるのは大変でしょう。ただ、極端なことを言えば、これからは誰もがピッチャーをやるような時代になるかもしれない。そうなれば、野球は今より点を取られやすいものになるかもしれません。そうした覚悟は必要です。

  • 「投手の障害予防に関する有識者会議」答申の主な内容

  • ●競技団体としての責務
  •  ・高野連主催の大会等で3連戦を回避する日程を設定する
  •  ・高野連主催の大会期間中、1人の投手の投球総数は1週500球以内
  •  ・健康調査票が活用されるよう加盟校を指導する
  • ●加盟校が主体的に行うべきこと
  •  ・練習過多で選手、部員にスポーツ障害が発生しない配慮をする
  •  ・選手、部員が体調不安、痛みを指導者らに伝えられる環境づくりをする
  •  ・様々な機会を使って複数投手の起用に取り組む
  •  ・負担が少ない正しい投球フォームの指導方法を研鑽する
  • ●野球界全体で取り組むべき課題の検討
  •  ・野球手帳の普及・推進
  •  ・学童・中学野球での大会、試合数の精選とシーズンオフの導入
  •  ・成長期のスポーツ障害早期発見のための検診システムの構築
  •  ・野球関係団体による地域連絡協議会の結成
  •  ・指導者のライセンス制の検討

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