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 日本の防災学の第一人者として、内閣府中央防災会議のワーキンググループの委員を務めた片田敏孝東京大学大学院特任教授は、日本の防災対策は新たなフェーズに入ったと説く。行政が災害リスクをゼロをにして住民を守り、住民はそれを享受するという“幸せ”な時代は終わったと言う。住民が主体的に行動し、行政はそれを支えるために最大限の努力をするという、新しい時代の防災のあり方が求められている。
片田 敏孝(かただ・としたか)
東京大学大学院情報学環 特任教授。日本の防災学の第一人者。2018年7月に起きた西日本豪雨を受けた内閣府の中央防災会議「平成30年7月豪雨による水害・土砂災害からの避難に関するワーキンググループ」の委員を務めたほか、「ここにいてはダメです」のフレーズで注目された東京都江戸川区の水害ハザードマップ作りにも主導的に関わった

今年(2019年)は9~10月に台風15号、19号が相次いで関東を直撃し、これまでに経験したことのない形の風水害にみまわれました。何が起きているのでしょうか。

片田敏孝東京大学大学院情報学環特任教授(以下、片田教授):日本を取り巻く気候がここ数年の間に大きく変わってしまいました。日本周辺の海水温が高くなり、台風がより日本の近くで発生するようになっています。しかも、日本に近づいてからも水蒸気を補給され続け、勢力が衰えずに巨大で強力な台風として日本を襲うケースが増えてきました。

 こうした台風は迷走しやすく、台風が接近する前に降る事前降雨の量も増えています。かつては関東地方に台風が来る際は、主に九州、紀伊半島などを経ていましたが、今では、関東を直撃したり、勢力を保ったまま東北地方を通過しています。しとしと雨が降るといった印象の強かった東北や北海道の降雨も様相を変え、大量の雨が降るようになってきました。

台風19号では、中央大学の山田正教授が「流域型洪水」という概念を示されました。河川流域の広い地域で雨が降り、それらが支流から本流に集まり、時間を経て、下流域で洪水を引き起こしています。大雨特別警報が解除されたあとに河川の氾濫情報が出されたところがありました。

片田教授:流域型洪水は、1カ所ではそれほど多くの雨が降らなくても、流域全体で相当量の雨が降り、それが大きな災害をもたらします。自分の住んでいる地域の雨量や水位だけを見ていても、全体で何が起きているかはわかりません。全体の状況を読み解かないと、どういう被害が起こるか予測しにくくなっています。

 地方自治体が発信する情報も完全ではありません。各地の市町村は合併によってカバーすべき地域が広がっているのに、防災担当者は増えず、対応しきれなくなっているところもあります。日本の防災は新たなフェーズに入りつつあると考えないといけません。