そのライフワークが多くの書籍となり、大学教授という第二の仕事に結びついたのですね。反対に言うと、会社で目の前の仕事だけに時間を割く生活を続けていると、自分のやりたいことや新たな課題が分からなくなってしまうのでしょうか。

教養がないと進むべき道が見えてこない

久恒氏:ビジネスパーソンには仕事以外の教養が大事だとよくいわれます。それはなぜでしょうか。

 例えば、歴史や地理という教養を身に付ければ、今は歴史上のどの地点にいるのか、日本は世界、あるいはアジアの中でどんな状況に置かれているのかということが分かり、時代の課題が見えてくる。すると、会社での課題も自分にとっての課題もおのずと見えてくるのです。従って、教養人とは「今日は何をなすべきか」を毎日自分に問い続けている人だと考えています。

 反対に、歴史や地理を学んでいない人は、自分の立ち位置が分からない。すると、今日何をなすべきかも分からない。大学では、人文科学、社会科学、自然科学という分野について勉強しますが、これらをバランス良く学ばないと自分の立ち位置がはっきりしてきません。学生に「なぜ勉強しなければいけないんですか」と問われると、「自分がどこに立っているか分かるようになるからだ。若いうちに学ばないと、大人になってから自分の人生のテーマが決まらないよ」と言うのですが、みな納得してくれます。学ばないと、自分の進むべき道が見えてこないのです。

久恒さんには、人物記念館を訪ねる旅というライフワークもありますが、これも教養の一つになるのでしょうか。

久恒氏:僕は大学時代、探検部で活動をしました。今も海外については探検の先達である梅棹忠夫先生の名著『文明の生態史観』に書かれた思想を確認する旅をすることにしています。

 一方、国内旅行をするときのテーマをどうするか。よくあるのは温泉やグルメの旅ですが、そうではないことを探していました。そんなとき、正月に出身地の大分県中津市に帰り、福沢諭吉の記念館に行きました。2005年、55歳のときです。

 実は福沢諭吉はあまり好きではありませんでした。子供の頃、朝から晩まで福沢諭吉は偉かったという話ばかりされて、いやになってしまったんです。ところが改めて記念館に行ってその足跡をたどると、やはり偉い人だったと気づかされた。

 それ以来、人物記念館を訪ねることをテーマに国内の旅を始めました。企画展も含めて年間約60館のペースで人物記念館や人物展を巡り、累計で900館を数えるまでになりました。14年ほどのこのライフワークで得た知識は、独自の情報源になっています。

どんなことが分かりましたか。

久恒氏:日本の近代には偉い人が多いということが改めて分かりました。ここで言う偉い人とは、影響力が大きい人。深い影響×広い影響×長い影響。この影響の「体積」が大きい人は偉い人だと思います。この考え方で言うと、一番大きいのは福沢諭吉。今では最も偉いと思う人の1人になっています。ちなみに、もう1人は渋沢栄一です。

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