
メガネレンズから医療用内視鏡、半導体材料まで光学技術を生かした多角化経営を推進するHOYAの鈴木洋代表執行役最高経営責任者(CEO)。仕事も生活もシンガポールに拠点を置いて見えてきた日本の姿を大いに語った。日経ビジネス11月4日号の編集長インタビュー「日本の会社は変わらなきゃ」に収載しきれなかった部分を含め、全文を3回にわたり、公開する。

社長就任から20年近く、一度も赤字にならず、利益も大きく伸ばしてきました。何が好業績のポイントですか。
運だね、運(笑)。
どんな運ですかね。
思っていたことと違うことが起こって、今こういう状態になっている。そういうのは運みたいなものでしょう。
思っていたことと違うことというのは?
この会社はHDD(ハードディスク駆動装置)用ガラス基板や半導体製造用マスク材料といった(最先端の)テクノロジー側の事業と、メガネとかコンタクトレンズという消費者に近い事業の両方を手掛けています。どちらかというと、半導体も含めてテクノロジーの方の事業が今年は悪いと思っていた。だから昨年から「コンシューマーに近い事業の方を一生懸命頑張ろうね」ということで、取り組み始めたのですが、ふたを開けてみたら、頑張ったのはテクノロジーの方だった。
半導体は新しい露光技術への移行が進むタイミングにうまく乗っかって半導体製造用マスク材料の販売が伸びたんですね。それと、データセンターを持たれている米グーグルや米アマゾン・ドット・コムなどが投資を続けていて、HDDの商売がそれなりに動いた。テクノロジー業界全体は良くないと思うんですが、マスク材料とHDDが意外に頑張ってくれて、そちらが思ったよりも伸びた感じです。
鈴木さんが社長になられてから、利益の厚みが全然変わりましたよね。何が変わったのでしょうか。
私が何かをしたからというよりも、その前に20年ぐらいやってきたことの結果が出ているんでしょう。ここしばらくは日本以外の市場で売り上げや利益を伸ばしてきました。25年前、30年前に「日本以外のビジネスを一生懸命やるべきだ」と言って手を打った人たちがいたからです。
これから10年、20年先を考えると、どんな手を打っておくべきですか。
そんなの分かったらやっているよ(笑)。
手は打っていらっしゃるんじゃないですか。(2007年のペンタックス買収で獲得した)内視鏡事業などもその表れかもしれませんが。
打とうと思ってもなかなか打ててないというのが現状です。この会社の経営の基本的な考え方は、1つの会社の中で小さい複数の事業の中身を時代に合わせて変えていくというものです。今の事業は“歳”を取ったものが多く、収穫期に入っているので利益は出ています。ただ、次の20年を考えるとポートフォリオの入れ替えをしなければいけない時期に来ている。
今、それを模索していると。
それが私の本業なので。
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