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ニュービジネスが生まれにくいといわれる日本の産業界。そんな中、高齢化社会の到来に向けて期待を集めている新商売がある。家系図作成ビジネスだ。自分はどこから来てどこへ行くのか。自らのルーツをたどってみたい――。そんな思いが年を取るにつれて高まっていく人は少なくないという。

とはいえ、一般的に家系図と聞けば、一部の人にしか作成できないものとのイメージが強い。仮に令和の今、一般の人が自らの系譜の謎を追求した場合、どの時代まで遡ることが可能なのか。家系図作成ビジネスを手掛ける溝口行政書士事務所の溝口浩一氏に話を聞いた。

(聞き手は鈴木信行)

溝口 浩一(みぞぐち・こういち)
大阪生まれ。特定行政書士、行政書士、宅地建物取引士、個人情報保護士(マイナンバー対応)、住宅ローンアドバイザー。溝口行政書士事務所では3年ほど前から家系図作成(FAMILY STORY)ビジネスを展開中。

家系図ビジネスを始められたきっかけを教えてください。

溝口:行政書士として長年相続の仕事に携わってきたことがきっかけです。相続というものは円満に運ぶケースばかりでなく、親族間で遺産の配分などを巡り対立することも少なくありません。特に最近は、相続の現場で、「自分を育ててくれた親や祖父母に敬いの気持ちが薄いな」と思える話を聞くことも珍しくなくなりました。「戦後75年を迎えようとする今、日本人の中で先祖や“家”に対する意識が希薄になっている。このままでは日本が駄目になるのではないか」──。そんな思いにとらわれ、多くの人が先祖や“家”の大切さを再認識する機会として家系図の作成を思い立ちました。家系図を作るということは、先祖を現代に顕在化させる作業だと考えています。スタートしたのは3年ほど前からです。

「認知症になりかけた両親との会話の資料にしたい」

どんな方が家系図の作成を依頼されるのですか。

注:西村寿行著『血(ルジラ)の翳(かげ)り』(角川文庫)181ページより引用

溝口:人生の終盤を迎え自分のルーツをたどってみたいという高齢の方も多いですが、親にプレゼントしたいという方もいます。また、認知症になりかけた両親との会話の資料にしたいという方もいました。理由は分からないのですが20歳くらいの女性の依頼者もいました。家系図を納品したときに涙を流して喜んでくれるお客様もいます。私自身も江戸時代に至るまでの家系図を作成し、ご先祖の名前や居住地を知ることで、自分のルーツや家族の物語を深く考えるようになりました。家系図を眺めていると、不思議とご先祖様にお会いしているような気になってきます。

とはいえ、立派な家系図を作成できる方は、一部の方だけでは?

溝口:そんなことはありません。でも、「家系図を作りませんか」と言っても、「自分は庶民だから」とか「遡っても面白くないんじゃないか」という方は確かに少なくありません。

その通りでは。私なんかせいぜいこんな感じのシンプルな図で終わってしまう気がしますが…。