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 欧州自動車メーカーの、電気自動車(EV)志向は極めて鮮明だ。リーダー格の独フォルクスワーゲン(VW)、そして仏ルノーは、戦略的「格安」EVを5年以内に投入すると発表。VWが2020年発売予定の「ID.3」は、ベースモデルのドイツでの価格が3万ユーロ(約360万円)以下になる予定という。

 欧州メーカーの思い切りの良さに比べ、日本メーカーの慎重さは、ややもすると決断力を欠いているように見える。「スマホ時代の到来を読み損ない、技術力はあるのにガラケーに執着した轍を踏むのか」と論じている向きもある。

 株式市場は各社のEVへの取り組み姿勢をどう評価しているのだろうか。UBS証券で自動車業界を担当するシニアアナリスト、高橋耕平氏に聞いた。

2019年9月「フランクフルトモーターショー2019」で披露されたVWのEV「ID.3」。ドイツ首相、アンゲラ・メルケル氏も登場し、ご機嫌で運転席に収まるパフォーマンスを見せていた。(写真:AFP/アフロ)

欧州メーカーの電気自動車への積極姿勢に比べ、日本企業は慎重で、せっかく築いてきた技術優位を失いつつあるのでは、という見方があります。例えば、トヨタはハイブリッド(HV)で先行したのに、EVでは出遅れている、とか。

UBS証券シニアアナリスト、高橋耕平氏

高橋耕平氏(以下、高橋):どうして欧州企業はEVに熱心で、日本はそうでもなく見えるのか。答えはわりと単純でして、欧州企業と日本企業では、見ている市場が大きく異なるからです。

自動車メーカーは世界中で競争をしているように見えますが……。

高橋:例えば、自社のマーケットが欧州と中国で100%だったら、「できるだけ早く、全車をEV化」と考えても、当然ですよね。

あ。

高橋:例に出されたトヨタは、自社のマーケットは中国が10%ちょっと、ヨーロッパは10%以下で、日本、米国、ASEAN(東南アジア諸国連合)、インドが主な市場です。一方、EVに最も熱心なのはドイツの自動車メーカーですが、例えばVWは欧州、中国で強く、あとは南米くらいでしょうか。一方、トヨタが強い市場ではEV志向はさほど高くありません。しかも発電のエネルギー源を考えると、EVは必ずしも二酸化炭素(CO2)削減効果が高いとは言いにくくなります。

なるほど。

高橋:自動車メーカーは、実は全世界に市場を持っている方が珍しいですし、その少数の企業にしても、全市場に等分にシェアを持つわけではありません。本当のグローバルプレーヤーは存在しないのです。

「正しい打ち手は一つ」という誤解

エリアが限定されていればこそ、大胆な行動が取れる、ということですか。

高橋:攻めと守り、という違いはあると思います。おっしゃるように、ドイツの自動車メーカーは市場を欧州と中国という、環境対応を強く要求するところに持つがゆえに、EVに思い切り舵を切ることができる。「攻勢に出て、新しいEV市場を作るのだ」という意思が明確です。トヨタは、先ほど例に挙げたように自社が強い市場に偏りはありますが、それでも「世界のすべての市場に対応できる準備をしておきましょう」という姿勢です。ドイツが攻めとすれば、守り、という印象になるかもしれません。

 「環境対応」は全世界的な合意事項だと思います。でも、その勢いには国や都市ごとの事情によって大きな違いがある。その違いに合わせて、それぞれの市場に合わせて電動化を進める、というトヨタの戦略は、極めてロジカルではあります。

それぞれに合理性があると。

高橋:EVに対する多くの誤解は「正しい打ち手は一つ」というものです。今、電動化の戦略は「どれも正しくて、どれも間違っている」と言えます。要するに「一つの解」はないのです。

 余談ですが、同じ誤解は、モビリティサービスについても起こっています。都市化の進展や経緯によって、求められるサービスはそれぞれ全く異なるはずなのに、全世界で一律のように考えている方が多い。例えば、欧米の大都市は個人が車で移動することを前提にしたところが多いですが、新興国でこれから都市計画を進めるところならば、公共交通機関を重視するはずです。進化した鉄道やバス、そして今の「車」とは全然違う、新しい移動手段が求められるでしょう。

なるほど。それにしてもEU(欧州連合)のCO2排出規制は厳しいですよね。2021年に各社車両1台当たり平均で95g/km、という数字は、ストロングHV(バッテリーのみで走れるハイブリッド車)を大量に売っているトヨタくらいしか達成できないだろうと言われているようですし、その先もどんどん厳しくなっていく。2050年には社会全体として実質排出量ゼロ(カーボンニュートラル)が目標だ、と。