消費債務が増えている背景は何でしょうか。

:中国では2010年代以降、消費金融業態の育成と整備が進められ、ちょうど同じ時期にスマートフォンの普及をきっかけに、消費者向けのインターネット金融サービスが広がりました。事業者側はビッグデータやAI(人工知能)を使って、独自の信用スコアをはじき出し、不良債権化を防ぐ仕組みも構築しました。こうしたビジネスの登場によって、これまで銀行からお金を借りられなかった消費者が手軽にお金を借りられるようになった。今回のデータで顕著な特徴は、この1世帯当たりの消費債務が東部よりも中西部地域、都市部よりも農村部の増加幅が大きく、しかも債務規模が大きいことです。これが消費債務を膨らませた要因と考えられます。今では家電を購入したり、教育や自己研さんに回すお金を工面したりするためにこうした消費者向けの貸出サービスを利用する消費者が増えています。旅行に行く資金を得るために借りる人もいるほどです。日本ではちょっと考えづらいと思いますが(笑)。

返済が滞ってしまう人も増えそうですが。

:ある調査ではほとんどの人たちが期日までに返済ができています。これは、返済が遅れれば、その人の信用スコアが落ちてしまう仕組みにあると思います。中国ではこの信用スコアは、飲食店や宿泊施設で受けられるサービスに違いが出るほど、日常に根差しています。お金を借りるときの金利が上がるだけではないのです。だから、多くの人が自分で返せる範囲内でお金を借りる。そして、生活を楽しむ。デジタル技術が中国人の消費に対する考え方を変えたわけです。

2008年のリーマン・ショック以降、金融リテラシーの低い家庭で過剰債務問題を引き起こしやすい、という指摘がありました。中国では同様の問題は起きませんか。

:私たちが調べたのもその点です。金融に対する知識や情報を持ち合わせている世帯ほど、債務を持つ傾向が確認されました。そして、興味深いのは、金融リテラシーが家計債務に与える影響は消費債務だけ、ということでした。

中国の家計債務の主因は住宅債務でした。金融リテラシーと住宅債務には関連性がないわけですか。

:そういう傾向が見て取れました。中国の住宅市場が拡大し、不動産価格が上昇する中で、住宅債務は家計にとって資産の拡大につながっています。資産が大きくなることは借り入れ能力を高めることにもなります。実際、住宅債務の6割以上は持ち家が2軒以上の家計が占めており、しかもこの傾向は強まっています。また住宅ローンを借りる際に、不動産会社が指定する金融機関から借りるので、ほかに選択肢はありません。従って、金融リテラシーが借入行動に影響を及ぼさないというのが中国の家計の特徴なのです。

金融リテラシーが低いのに、返済負担の大きい住宅債務を抱えることはリスクにはなりませんか。

:大きな前提として、中国では不動産価格が大きく下がらない、ということがあります。

 負債が収入を上回っているのは25~35歳の世帯だけです。ただし、これらの世帯は働き盛りであり、返済能力も高い。彼らは住宅を購入することで、資産を増やしているのです。不動産価格が下がらなければ、資産を抱えていることになるので、問題はありません。仮に価格が下がっても、資産を売れば、借入金を返すこともできます。

農村部など収入が比較的低い世帯は大丈夫ですか。

:確かに低所得者層の返済リスクはあります。低所得者層ほど、収入に対する債務の金額が大きい。住宅価格が大幅に下がれば、こうした世帯ほど返済できなくなる可能性は高い。ただし、その比率はとても小さいとみています。不動産価格が50%下落しても、返済できなくなる家庭は全体の3%という試算もあります。

住宅価格の上昇が続き、大都市の住宅価格は年収の何十倍にもなっていると聞きます。政府としてはバブルは作りたくない。かといって、価格が下落してバブルが崩壊するのも避けたい。かじ取りは難しいですね。

:中国では政府が住宅価格も住宅ローンもある程度は政策的にコントロールすることができるので、不動産価格の大幅な下落は考えにくいと思います。

 一方で、政府には債務を消費拡大、内需拡大につなげたいという思惑があります。消費者金融を制度化したのも、そのためです。住宅債務で見たように、債務は資産効果をもたらします。資産を増やせば、消費に回るお金も増える。そうしたサイクルがうまく回れば、家計債務の増加が消費拡大を支えることができる。今はそういう状況だと思います。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り563文字 / 全文3539文字

日経ビジネス電子版有料会員なら

人気コラム、特集…すべての記事が読み放題

ウェビナー日経ビジネスLIVEにも参加し放題

バックナンバー11年分が読み放題

この記事はシリーズ「インタビュー」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。