2019年7~9月期の国内総生産(GDP)成長率が前年同期比で実質6.0%にとどまり、減速感を強める中国景気。米中貿易摩擦など外部環境の悪化が最大の要因だが、もう一つ、中国経済の先行きに影響しそうな材料がある。急膨張する家計債務だ。2007年に5兆700億元だったものが、18年には46兆8000億元(約720兆円)に増加。GDPに占める比率は07年の19.1%から18年に52.4%まで高まった。これは日本(58.4%)に匹敵する水準だ。景気減速が続き、返済余力が乏しくなれば、中国経済へのダメージも大きくなりかねない。中国の家計債務問題をどう見るのか。このほど中国2万4689世帯の債務状況を調べた中央大学の唐成教授に問題の本質を聞いた。

中央大学経済学部教授。中国浙江省紹興市出身、1991年来日し、2001年筑波大学大学院博士課程修了、経済学博士取得。慶応義塾大学総合政策学部訪問講師を経て、2006年桃山学院大学経済学部助教授、2012年より同学部教授。2014年から現職。専門は中国経済論。近著に「金融リテラシーと家計の借入行動-CHFSに基づく実証研究」(張誠氏と共著)、「中国における家計の資産選択行動ー山西省の事例を中心にー」 など
中央大学経済学部教授。中国浙江省紹興市出身、1991年来日し、2001年筑波大学大学院博士課程修了、経済学博士取得。慶応義塾大学総合政策学部訪問講師を経て、2006年桃山学院大学経済学部助教授、2012年より同学部教授。2014年から現職。専門は中国経済論。近著に「金融リテラシーと家計の借入行動-CHFSに基づく実証研究」(張誠氏と共著)、「中国における家計の資産選択行動ー山西省の事例を中心にー」 など

中国の家計債務が急膨張しています。

唐成・中央大学教授(以下、唐):お金を借りる目的は主に3つあります。住宅を購入するために借り入れる住宅債務、自営業者が会社や農業生産を回すために借りる経営債務、そして車や教育、医療など、日常的な消費に充てる消費債務です。

 私たちは西南財経大学中国家計金融調査研究センターの全国規模の家計調査(CHFS)のデータを使って家計の状況を調べてみました。対象は2015年および17年の同一2万4689世帯です。そこで興味深いデータが得られました。

 まず、負債を持っている世帯の割合は15年の27.93%から17年に27.82%へとわずかに減りましたが、負債残高は逆に1世帯当たり3万5284元から4万2325元と大幅に増えています。

 住宅債務、経営債務、消費債務で見てみましょう。1世帯当たりの住宅債務は15年の2万1873元から17年には2万7347元に増えました。同じ期間では経営債務は8862元から9357元、消費債務は1981元から3800元にそれぞれ増加しました。

 こうして見ると、中国の家計債務の急膨張の主因は住宅債務であること、そして、消費債務は金額はまだ小さいものの、わずか2年で倍増したことが分かります。

中国ではあちこちでマンション販売の展示会が開かれ、多くの購入希望者が来場する(写真:ユニフォトプレス)
中国ではあちこちでマンション販売の展示会が開かれ、多くの購入希望者が来場する(写真:ユニフォトプレス)

住宅債務は経済が発展している沿海部の都市部の世帯で増えているのでしょうか。

:そうとも限りません。CHFSが給与所得を得ている世帯を対象に実施した別の調査では、17年時点で資産に対する負債の比率が最も高い地域は内陸部の重慶市でした。さらに3位に四川省、4位に安徽省、5位に雲南省と上位は内陸部が占めています。ローンを組んでいる家庭の比率で見ても、西部(内陸部)は43.9%と東部(沿海部)の39%を上回っています。これらのデータは、ローンを組んで住宅を購入する人たちが内陸部や農村部に広がっていることを示しています。