メイ:村井さんがおっしゃったことで大切なのは、日本のビジネスの健全性、言い換えればグッドハートであることです。きちんと約束事は守るとか誠意があるとか、スポーツ界だけでなく企業も一般的に同じ面があります。新日本プロレスの場合も選手がけがをして1~2年、試合に出られなくてもそのまま報酬は払い続けますし。もうこれ以上できないというときには社員にすることもあります。

村井:Jリーグは2018年当時で、海外では約1200万人が地上波や衛星放送で視聴しています。ここにDAZN、Rakuten Sportsなどのインターネットでの配信が加わり、世界150以上の国と地域で配信・放送されている体制です。また先日2020~22年の海外放映権の契約に合意しましたが、これまでの3年間で計約10億円だった売上高が、計約25億円に大きく成長しました。

 2014年にチェアマンに就任したとき、Jリーグは社員有志が「これからは海外が主戦場になる」と考えている段階でした。いろいろな取り組みを自発的に進めていたのがJリーグの海外展開のルーツになっています。その延長線上にあるのが今の姿です。

 カスケード方式だと言っていますが、Jリーグは現在、提携する7カ国のリーグとパートナーシップ契約を結んでいます。まずJリーグとその国のトップリーグが友好関係を築くと、次第にクラブ、スポンサーなどさまざまな交流が始まります。すると今度は選手の交流、指導者の交流に移っていきます。タイでは日本の選手が40人ほどプレーしていますし、指導者も増えています。さらにファンサポーターが行き来するようになり、草の根の交流が始まります。

 ただし、Jリーグのクラブは企業名を使わないで地域名を名乗り、地域に密着し、各地域のために存在しています。それがレゾンデートル(存在意義)であり、先に海外があるわけではありません。その地域のファン、サポーターにサッカーを通じて豊かになってもらうことが大切です。例えば運動する広場や緑の芝生を増やすことを目指していますし、国内には過疎化などさまざまな問題があるなか、ホームアンドアウェーのゲームを通じて交流人口を増やそうとか、スポーツツーリズムで地域をもっとにぎやかにしていこうとか、いろいろな形で取り組んでいます。子どもの教育問題、お年寄りの健康問題など、ほかにもアジェンダが多数あります。それをまずやっていこうということです。こうしたいくつかの地域課題のなかには、いわゆる国際交流もあります。

<span class="fontBold">村井 満(むらい・みつる)</span><br>Jリーグ(公益社団法人日本プロサッカーリーグ)チェアマン。1959年生まれ。早稲田大学卒業後、日本リクルートセンター(現リクルートホールディングス)入社。同社執行役員、リクルートエージェント(現リクルートキャリア)社長などを歴任。2008年からJリーグ理事を務め、14年に第5代チェアマンに就任。クラブ経営の経験がなく、外部から招かれた初のトップ
村井 満(むらい・みつる)
Jリーグ(公益社団法人日本プロサッカーリーグ)チェアマン。1959年生まれ。早稲田大学卒業後、日本リクルートセンター(現リクルートホールディングス)入社。同社執行役員、リクルートエージェント(現リクルートキャリア)社長などを歴任。2008年からJリーグ理事を務め、14年に第5代チェアマンに就任。クラブ経営の経験がなく、外部から招かれた初のトップ

動画配信サービス、会員の半分ほどが海外

メイ:どれくらいの人が見ているのかについての数字は持っていませんが、新日本プロレスは10カ国でレギュラー放送を行っています。動画配信サービスもあり会員が10万人いますが、このうちの半分ほどが海外です。海外の比率は高く、日本のブランドがコンテンツとして海外で通用するあかしだと思っています。

 プロレスの場合、日本の試合はだいたい夜に開催します。このため、ライブ配信すると米国では放送時間が午前3時くらいです。すると米国では視聴率がどうしても低くなります。このため、映像だけでなく、実際に「見せにいく興行」がどうしても必要になります。

 本物を見てもらうため、ロンドンやニューヨークで試合を組んでいます。先日は米東海岸で連戦を行いました。コンテンツとして定着させるには、こうした投資が必要だと思っています。

村井:Jリーグの場合、選手はそれぞれのクラブに所属しています。そして、クラブが所属するのがJリーグという構造です。選手が直接所属している新日本プロレスとはこの点に違いがあります。

 それを踏まえたうえで言うならば、我々にとってのコンテンツとはクラブでありプレーヤーです。

 例えば、タイからチャナティップ選手が北海道コンサドーレ札幌に加入すると、初日の練習はJリーグ公式のタイ語のフェイスブックで300万人以上にリーチしました。札幌市の人口が約197万人ですから、それを上回るものすごい人数です。

 1990年代に中田英寿選手がイタリアのペルージャでプレーしたとき、日本中がこぞって中田選手に注目した時期がありましたが、同じようにJリーグに所属する選手やクラブがコンテンツとして海外に広がっています。

メイ:例えば、野球の大リーグでイチロー選手がシアトルでプレーすると、マリナーズが好きになる。その前までは大リーグのことをあまり知らなかったとしても、そうしたことが起きます。ローカルのヒーローはとても大切なコンテンツです。

村井:選手やクラブを通じて、Jリーグの裾野がそれだけ広がってきています。現在さまざまな交渉を進めていますが、海外での放映権はJリーグにとって収益源の1つになっていますし、視聴する人が広がるとマーケティングのうえではスポンサーのメリットがいっそう出てきます。

 アジアの若手選手が日本のJ1のクラブでいきなりプレーするのは難しくともJ2、J3でトレーニングして世界を目指すということが起こっています。結果的に自国の選手が日本でプレーするとそれを見ようというモチベーションになります。欧州のリーグでプレーすることを夢見るアジアの選手にとって日本が橋渡しするようなポジションであることが、コンテンツの価値につながっています。

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