
日本のスーパーマーケットの経営者たちがアメリカに刺激を受けた理由を実感できた──。
日経ビジネスで連載した小説『二人のカリスマ』(スーパーマーケット編・コンビニエンスストア編)は、戦後に大きく成長を遂げた日本の流通業界の現代までを描いた作品だ。執筆に当たって、著者の江上剛氏は、日本のスーパーマーケット関係者が視察や研究に訪れるという米国のスーパーマーケットの店舗を自ら訪れた。そこで米国のスーパーマーケットの店づくりやサービスに感心したという。江上氏に米国流通で得たものを聞いた。
(聞き手は日経ビジネス編集部)

1954年、兵庫県生まれ、早稲田大学政治経済学部卒業後、第一勧業銀行(現・みずほ銀行)に入行。人事部や広報部での勤務や、支店長を経験。97年の総会屋事件では解決のため奔走した。2002年在職中に小説『非情銀行』(新潮社)でデビュー。03年、銀行を退職し作家に。以来『企業戦士』(講談社)、『特命金融捜査官』(新潮社)、『ラストチャンス 再生請負人』(講談社)など多くの作品を執筆し人気を集める。(写真=北山宏一)
『二人のカリスマ』執筆のために、昨年、連載開始前に米国の流通事情も取材されました。現地のスーパーをご覧になっていかがでしたか?
江上剛氏(以下、江上氏):これが驚きました。米国にはそれまで取材旅行にも行っていますが、じっくりスーパーマーケットを見たことはなかったのです。
しかし、伊藤雅俊(セブン&アイ・ホールディングス名誉会長)がアメリカのスーパーマーケットを参考に、チェーン展開を決めたと知って、米国のフロリダ州を中心に展開するパブリックスという優良スーパーや、米アマゾンが買収したホールフーズなど、様々な店舗に行くと、それぞれに特色があり工夫があると感じました。
パブリックスは、実際に伊藤雅俊さんが視察に訪れたスーパーです。まず店内に入ると、見事な商品陳列に驚きました。野菜の棚がアート作品のようにカラーコーディネートされていたのです。野菜だけでなく、ほかの商品でも、棚を管理する専門のスタッフがいて、1日に4回というように、並べ直しているということでした。
きれいに見せるだけでなく、客が選びやすいように、という配慮からだそうです。遊び心のあるディスプレーもありました。



日本のスーパーマーケットとの違いも感じましたか。
江上氏:パブリックスでは、サービスが手厚いことに感心しました。
昨年は、フロリダ州のオーランドという町にあるパブリックスの店舗に行きましたが、ここはリタイアした世代、つまり高齢の顧客も多いんですね。地元の記者に聞くと、パブリックスはやや高級なスーパーの部類で、価格重視の客はウォルマートなどを使うことが多いということでした。
実際にパブリックスでは、レジでは店員が袋詰めをしてくれるし、高齢の客のために店員が荷物を車まで運んでいました。今、日本では、人手不足や、効率化を進めるということで、なかなかそこまでのサービスは見かけません。パブリックスは、店舗によって料理教室のスペースを設けるなど、楽しそうな雰囲気がありました。

近隣の数店舗のパブリックスに行きましたが、どの店も創業者であるジョージ・ジェンキンスさんの写真を店内に飾っているのも印象的でした。ジェンキンスさんは、スーパーマーケットは1ペニー(セント)を大切にするビジネスだ、と言って、従業員に顧客を大切にするよう説いたのと同時に、従業員にも株を与えてやる気を引き出したと言います。伊藤さんもその影響を受けていると感じました。

残念ながら正式な取材は断られたのですが、聞いた話では、待遇も決して悪くない。そのためか、店員一人一人が自分の仕事に誇りを持っているし、創業者のジェンキンスさんにも好印象を持っているように感じました。
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