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 カリスマの姿を自分なりに掘り下げて、描いてみたかった──。

 日経ビジネスで連載した小説『二人のカリスマ』(スーパーマーケット編・コンビニエンスストア編)は、連載中から大きな反響を呼んだ。著者の江上剛氏は、イトーヨーカ堂の伊藤雅俊氏と以前から親交があり、流通業界を題材にしたビジネス小説を書きたいという構想を持っていた。
 執筆に当たっては「モデルとなる企業や経営者はいたが、あくまでフィクションなので忖度(そんたく)しなかった」と話す。自らもメガバンクで勤務した経験を持ち、経営に対して鋭い視点を持つ江上氏に、改めて作品を描いた経緯、作品に対する思いを聞いた。

(聞き手は日経ビジネス編集部)

江上剛(えがみ・ごう)氏
1954年、兵庫県生まれ、早稲田大学政治経済学部卒業後、第一勧業銀行(現・みずほ銀行)に入行。人事部や広報部での勤務、支店長を経験。97年の総会屋事件では解決のため奔走した。2002年在職中に小説『非情銀行』(新潮社)でデビュー。03年、銀行を退職し作家に。以来『企業戦士』(講談社)『特命金融捜査官』(新潮社)『ラストチャンス 再生請負人』(講談社)など多くの作品を執筆し人気を集める。(写真=北山宏一、以下同)

ヨーカ堂の伊藤さんとダイエーの中内さんに興味があった

『二人のカリスマ』は発売後、好評を博しています。フィクション小説ですが、主人公や登場人物は、実在の人物がモデルとなっています。改めて、江上さんがなぜ、この小説を書こうと思われたのか、教えていただけますか?

『二人のカリスマ』(スーパーマーケット編、コンビニエンスストア編)各1600円+税(日経BP社)

江上剛氏(以下、江上氏):十数年前、人を介してイトーヨーカ堂の伊藤雅俊さんにお会いして以来、何度かお話を伺う機会がありました。流通業界の中で、スーパーを発展させた伊藤さんとダイエーの中内功さんは、僕にとっては、中国の項羽と劉邦のような存在です。中内さんに会ったことはないのですが、イメージで言えば、中内さんが項羽。勇気もあり、覇を求めて突き進むタイプです。一方、伊藤さんは劉邦。最後に結果は出すのですが、のんびりした面もあり負け戦もある。

 経営者としてのお2人、そしてお2人が創った企業を比べると、中内さんは時代の寵児(ちょうじ)のように言われたけれど、最後は破綻しました。一方で伊藤さんは、セブンイレブンを育てるなど成長を続けました。何が両社の明暗を分けたのか、生き残りの条件は何なのか、ヨーカ堂は何が優れていたのか、と、どんどん興味が湧いたのです。

小説では伊藤さんをモデルにした藤田俊雄と中内さんをモデルにした仲村力也の2人が焼け野原で出会い、闇市に行く設定になっています。

江上氏:この場面はもちろん創作ですが、戦後に成長した流通企業は闇市の商売から始まっているところが多いのです。ダイエーもイトーヨーカ堂も、ライフコーポレーションも広島のイズミも。政治家の父を持つ西友の堤清二さんは例外ですが。闇市の中でモノを売っていた有象無象の露店。その中の一握りが大きくなって企業となり、戦後を生き抜き、バブル崩壊後に消えていった。ダイエーも堤清二さんの西友も、マイカル、長崎屋も……。

 生き残るための要素は何か、一つでもいいから書いておきたいという思いに駆られました。外から会社を見ると、大きな違いがあるようには見えず、どこに差があるのかは分かりません。でも、何かがあるはずなのです。