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2019年のノーベル化学賞に選ばれた旭化成名誉フェローの吉野彰氏が日経ビジネスのインタビューに応じた。「大学が基礎研究と応用研究の真ん中あたりをうろうろしてしまっている」「ダメでもいいからやってみな、と資金を提供する人がいない」などと語り、大きな成果を生み出しにくくなっている日本の研究環境を憂えた。

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吉野氏はデジタル機器や電気自動車に欠かせないリチウムイオン電池を生み出したことが評価され、ノーベル化学賞を受賞した

ノーベル化学賞の受賞、おめでとうございます。受賞の実感が徐々にわいてきたところでしょうか。

 受賞が決まった日やその翌日は少し高揚した状態になっていてあまり実感がありませんでしたが、3日目の朝を迎えたときからなんとなく重圧を感じるようになりました。あれだけ日本中が大騒ぎすることをしたのだなと。これからうかつなことは言えなくなってしまうね(笑)。

ノーベル賞の受賞が決まった後の会見では「研究者は粘り強さと柔らかさの両方を備えていなければならない」と話していました。あらためて、研究者はどうあるべきだとお考えですか。

 私の好きな言葉に「実るほどこうべを垂れる稲穂かな」があります。一般的には、「人は徳が深まるほど謙虚になる」という意味だと捉えられる。でも、私は違う意味もあると思っています。「実ったらこうべを垂れなさい」と言っているのであって、実る前はこうべを垂れてはいけないのだと。稲も、真夏には太陽の光をいっぱい浴びられるようにとんがっているでしょう。

 だから若い研究者には、30代半ばになったらぜひリスクを負った挑戦に踏み出してもらいたいと伝えたい。30代半ばというのは人生で一番動きやすい時期です。会社や社会の仕組みを理解し、ある程度の権限も生まれる。自分で考えて自分で動ける。そのうえ、万が一、失敗してももう1回ぐらいは挽回のチャンスがある。

 私が今回の受賞対象となった研究に取り組んだのは33歳のときでした。歴代のノーベル賞受賞者が研究を開始した年齢の平均値も30代半ばだと聞きます。

 とんがっている時期に成果を出せということではありません。始めてから世界が認める成果になるまではかなりの時間がかかるものです。私の場合は(ノーベル賞受賞まで)40年近くかかりました。その未来に向けてスタートを切れるかどうかが大事なのです。