聞き手/深尾典男(日経エコロジー編集長・当時)
写真/室川イサオ
編集/日経ESG編集部
スウェーデン王立科学アカデミーは10月5日、2021年のノーベル物理学賞を米プリンストン大学の真鍋淑郎・上席研究員らに授与することを発表した。日本から米国に渡った気象学者の真鍋氏は、大気の振る舞いをコンピューター上で再現する気候モデルを開発し、CO2が倍増すると 約3.5℃気温が上がると試算した。「日経ESG」の前身となる「日経エコロジー」は数回にわたり真鍋氏に取材している。ここでは2000年に実施した、3800字に及ぶ日経エコロジー単独インタビューを紹介する。(肩書など2000年当時の記述をそのまま掲載する)

米国では、地球温暖化現象そのものに対する疑念があったと思いますが?
真鍋 温暖化が起こっていることについては、米国でも議論の余地はありません。現在の気温の上昇は、世界的な観測結果から明らかです。過去600年くらいの地表面の温度変化を分析すると、1900年ころから急速に上昇しているのがわかります。これまでに0.7℃くらい気温が上がっているでしょうか。この100年間のような温度上昇は一度もありませんでした。温暖化が起こっているということについては、否定する見解は米国でもほとんど姿を消しつつあります。
CO2など温室効果ガスとの因果関係も認められつつあるのでしょうか。
真鍋 地球温暖化とCO2などの温室効果ガスとの関連もほぼ間違いありません。CO2をはじめとする温室効果ガスは大気中には0.1%もない微量成分なんです。ところが、この温室効果ガスがなかったら、地球の平均気温は零下17℃くらいになるといわれています。いまの平均気温が15℃くらいですから、温室効果ガスが30℃以上気温を引き上げています。それくらい効果が大きい。
大陸の氷床に閉じ込められた気泡などから分析すると、CO2はだいたい1800年くらいから増えていることがわかります。産業革命の時期と一致しています。気温上昇との間には時間差がありますが、これは気温がCO2の濃度に単純に比例するわけではないためです。身近なところで、東京都の場合は、100年前と比べて気温が3℃ほど上がっていると思いますが、そのうちの半分以上は都市化が原因だと思います。外国の町に比べると、はるかに緑が少ないですし、アスファルトですっかり固められていますから。
21世紀後半には気温が2℃以上上昇、局地的には7℃以上上がるケースも
これまでの研究で、温暖化は今後、どんな形で進むと考えられますか。
真鍋 中生代、恐竜が生きていたころですが、この時代は、いまと比べてずっと気温が高かったと考えられています。理由は、やはり大気中のCO2が多かったことにあります。そのころは大陸移動が速かったために、風化作用によって石灰岩に取り込まれていたCO2が、火山活動によって再び大気中に出てくるわけです。そのためにCO2濃度が高かった。それが2000万年くらい前になって、大陸移動のスピードが落ちたんですね。同時に風化作用のスピードが上がり、大気中のCO2が減少した。いまは、地球の長い歴史からいうと、寒い時期にいるわけです。ところが人間の活動で、CO2濃度が急激に増加している。われわれのシミュレーションでは、21世紀の後半には、海洋の気温でほぼ2~3℃上昇すると見ています。ところが陸域では3~5℃も上昇する。北極海ではさらに高く、7℃近く上がる。そうすると北極海の氷は、いまの6割くらいになるだろうといわれています。今後300年くらいで地球の平均気温は8℃、北極海周辺では16℃も上がるのではないかというシミュレーション結果もあります。
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