改革の象徴「本麒麟」
「麒麟」という社名を大きく使って、コーポレートカラーの赤色を使って、しかも聖獣のマークをどかーんと置く。これは、改革前には出せなかった商品だと思います。従来ならば上の人間に判断を仰いで、その結果、「新ジャンルで聖獣を使うなんてあり得ない」とか「麒麟と名前を付けてこけたらどうするんだ」という議論になっていた可能性は大きいです。
でも、徹底的にお客様を調査してお客様の判断を基軸にした結果、やはりこの商品にたどり着いた。それを世に出したところご承知の通りヒットしたので、社員が「お客様を基軸に判断するというのはこういうことなんだ」と理解できました。

改革の初めに僕がお客様のことを考える組織にしたいと言った時、社員はおそらく「今さら何を言ってるんだ」と思ったことでしょう。大衆商品を扱っているメーカーで顧客第一とか、お客様本位を掲げない企業なんてありません。ただ、本当にそれができているかどうかはまた別の話で、おそらく圧倒的にできていない企業が多いでしょう。当たり前のことを極めて高いレベルでやり切るというのはどういうことか、そして、どれだけ難しいことか。これを理解するためには、成功事例によって体現することが必要でした。
運が良かったのだと思います。本当に良いタイミングで成果を出せました。新商品をどんどん出すのではなく、数を絞ってでもお客様の求めている商品を出してブランドを強くする。そうした戦略にがらっと変えたので、初めのうちは誰も確信を持てていなかったし苦しかったと思います。社員は、このやり方で正しいのか、本当に勝てるのかという不安を抱えていました。
だから早く成功体験をつくってあげなければいけません。積み木を重ねるように成功事例が続くと、ああ、この戦略で正しかったのだと確信を持てる。そうなると、相乗効果で組織風土にもいい影響がつながってきます。
こちらには積み上げてきたものがある
トップがいくら「組織風土を変えるぞ、変えるぞ」と言っても、それだけで会社を変えることは難しいものです。改革は、戦略と社員のマインドとの掛け算です。いい戦略をつくり出して、いい方針を示してあげて、それを社員が実行して成果につながる。こうやって好循環の形になっていくというのが、自分の中での改革のイメージなんです。
新商品だ、赤いパッケージだ、と、この業界は「同質化」といってすぐにまねされてしまう。でも、社員のマインドや組織風土はよそさんには見えない競争優位性になり得ます。戦略とマインドの掛け算だとか、お客様のことを考えるだとか、手の内を隠す必要は全然ないと思っています。これを形だけまねしたって、こちらには積み上げてきたものへの自負があるので、そう簡単にはいかないぞと思っていますからね。
20年には再びビール類市場で首位を奪還するなど好調です。ここまでは布施改革が順調に進んできたように見えます。
布施氏:全然順調じゃないですよ。社長になって最初の2~3年くらいは、何をやってもうまくいかなかった。振り返ってみると、15年に就任してから17年の途中までは、小手先の戦略で短期的に売り上げを増やすような感じだったかもしれないですね。
長期的に会社を良くするような、今みたいなことをやれていなかった。だから最初は全然だめでしたよ。何をやってもうまくいかなくて、苦しかったです。クビになるんじゃないかと思って。「まあ、いいや」という気持ちでやってはいましたが(笑)。
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