キリンビール社長を務めていた布施孝之氏が9月1日に急逝した。業績不振だった2015年に社長に就任。「布施改革」と呼ばれる組織風土改革を主導して会社を立て直し、20年には同社をビール類市場で11年ぶりのシェアトップに導いた。心をつかむ実直な人柄と朗らかな笑顔が印象的だった。

 本誌8月16日号特集「良い社風、悪い社風 不祥事の根源か、改革の妙薬か」での単独インタビューがメディアによる最後の取材となった。自らの風土改革と社員への思いを語った布施氏の言葉を、追悼の意を込めて改めて掲載する。謹んでご冥福をお祈りいたします。

<span class="fontBold">キリンビールの布施孝之前社長</span><br/>1960年千葉県生まれ。82年早稲田大学商学部卒業、キリンビール入社。2010年小岩井乳業社長、14年キリンビールマーケティング社長を経て、15年にキリンビール社長就任。(写真=的野弘路)
キリンビールの布施孝之前社長
1960年千葉県生まれ。82年早稲田大学商学部卒業、キリンビール入社。2010年小岩井乳業社長、14年キリンビールマーケティング社長を経て、15年にキリンビール社長就任。(写真=的野弘路)

2017年から「布施改革」と呼ばれる風土改革を進めてこられました。「会社を変えなければいけない」と感じたきっかけは何だったのでしょうか。

布施孝之キリンビール前社長(以下、布施氏):僕がキリンビールの社長に就任したのは15年でした。トップという立場に就いて会社を眺めた時、そこから見えたのは、会社がどどどっと右肩下がりに落ちていくような、そんな景色でした。

 何十年とトップシェアをキープしていたキリンビールでしたが、01年にアサヒさんに追い抜かれました。しばらく業界2位のポジションが続いたのですが、09年に一度トップを奪還しました。ただ、そこから慢心してしまい、10年、11年、12年……と、どんどん業績が下がり続けた。企業というのは業績が悪くなってくると、責任を人に押し付ける「他責の風土」というのが出てくるんですね。

とにかく何とかしないといけない

 営業からすると、「売れないのは本社のマーケティング部門が良い商品を出さないからだ」。一方本社は、「未達成がずっと続いている営業のやり方がまずいんじゃないか」。製造は、「僕らはもっと作りたいのに何をやってるんだ」と。要するに、いがみ合いの構図みたいになっていました。

 こういった空気は、たとえ言葉に出さなくても非言語的なところで感じてしまうものです。営業の現場や工場へ行った時にあいさつに元気がないとか、何となく後ろ向きな空気を発しているんですね。逆に、この組織は前向きでコミュニケーションが取れているな、という空気もぱっと分かるものです。だから、トップに就いて最初に見た風景では、そんな社内の後ろ向きな空気をすごく感じました。

 こんな風土では絶対に良い業績は出せないし、何よりも、社員が生き生きと誇りを持って幸せに働けていなかった。これをとにかく何とかしないといけない、というのがその時の思いでした。

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