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 ヤフーは2014年8月、企業向けマーケティング支援事業を展開していた上場企業、シナジーマーケティングに対してTOB(株式公開買い付け)を実施し、翌年1月に完全子会社化した。それから5年経て、創業者である谷井等氏が全株式を買い戻した。アスクルとの件ではもめにもめたヤフーだが、シナジーマーケティングのヤフー離脱はスムーズに進められた。取締役会長に就任した谷井氏に話を聞いた。

(写真:山田 愼二)

ヤフーに売却後、2017年1月末に代表取締役を退任した。その後は。

 旅人をしていた。世界50カ国くらいを回っていた。日本で2~3社の社外取締役をしていたため、日本には定期的に戻ってはきていたが、東欧、アジア、アラブ諸国などを放浪していた。

 一番刺激的だった国はインドだ。空港からホテルまでタクシーで行くといった普通のことが、なかなかスムーズに進まない。一つひとつ乗り越えていくしか術(すべ)はなく、ベンチャー気質の自分にとっては楽しい国だった。

そもそもヤフーに売却後、なぜ代表を退任したのか。

 株式を保有して経営するダイナミズムというものがある。株式を手放した瞬間にモチベーションが下がってしまった事実は否めない。自分自身を鼓舞して頑張ろうとは思ったが、燃え上がるような感覚がどうしても失われてしまう。

 退任した後、もう一度ゼロから事業を立ち上げようと思っていたが、すぐにはできなかった。恐らく疲れていたんだと思う。やる気が起きなかった。

今回、ヤフーから全株式を買い戻すに至った背景について教えてほしい。

 シナジーマーケティングの代表取締役社長を務めている田代正雄とは年に1回くらいのペースで会っていた。今年の2月末くらいだろうか、食事をした帰りに「谷井が買い戻すというオプションはないでしょうか?」と田代に言われた。それまで考えたこともなかった提案で、正直戸惑った。

 ヤフー自身の方針も当時とは大きく変わった。傘下に入ったシナジーマーケティングの立ち位置が揺れているのであれば、社員のことを考えるとそれもありかもしれないと考えた。とはいえ、売却時の金額は約92億円。買い戻すにしても、相当なお金がかかる。その時に田代にした返事は「なくはない」というものだった。

 ちょうど自分としてのタイミングが良かったことも背景にある。世界各国を回り、気がつけば自然と事業プランを考え始めている自分に気づいた。そろそろ動き出さねばと思っていた矢先のオファーだった。恐らく半年前のタイミングだったら引き受けていなかっただろう。

 その後、田代がヤフーに話を持ち込み、創業者による買い戻しを提案したところ、ヤフーは快く応じてくれたことから今回の買い戻しに至った。